腹が減ってはただの小娘

 結局、自警団に解放されるまで30分近く掛かった。アレが魔術によるもので、害意は無かった事などはすぐに認められたのだが、それをミィカがぶっ放した事がどうにも信じられなかったらしい。気持ちは分かる。

 挙句、人相が悪いというだけの理由で全てレーヴェのせいになりかけたが、ミィカがもう一度あの魔術をぶっ放した事でようやくこちらの主張は全て信じてもらえた。最後に軽く説教されたが、まぁそれは甘んじて受けた。


「はぁぁぁぁ……やぁっと街に入れましたわ」

「迂闊な行動は余計な面倒を招く。一つ利口になったな小娘」


 がっくりと肩を落とし、ミィカが覇気のない声をこぼす。


「魔術師は実力者になればなるほど人前で披露する事を嫌うらしいですが……理由が分かりました。若輩の身ですが、次からは周りをよく見て魔術を使う事にしますわね」

「そうしとけ。ま、俺も想像力が足りなかった。まさかあそこまでの威力が出るとはな」


 昨晩、ごろつき達にぶっ放した魔法を基準に考えていたので、アレと桁違いの大きさの炎が出る事など全く想定していなかった。

 と、ミィカが指を立てて言う。


「昨日使ったのは〝略式〟でしたので。さっきのが〝正式〟で、ほぼ全力ですわね」

「略式……なるほど。詠唱を略したから、昨日のは威力が弱かったわけか」

「略式は主に、詠唱が長く、且つ元の威力が高い応用魔術で用いられます。魔術の名称のみを唱える事で発動させるので、威力が最低限になる代わりに詠唱の時間も最小限となります。魔力消費も抑えられるので、基本的には略式を用いるのですわ」


 説明を終えたミィカが、それでこれからどうしますか? と尋ねてくる。レーヴェは小さく頷き、


「街に着いたらまずは宿を確保……と言いたいところだが、やる事がある。ギルドを探すぞ」

「魔術ギルドを……ってちょっと! お待ちなさいな!」


 歩き出すレーヴェに追い縋ったミィカは、横に並んで歩調を合わせた。

 時刻は正午過ぎ。さほど大きくない街だとはいえ、時間が時間だけに活気はある。

立ち並ぶ露店、飛び交う客引きの声、漂う食欲をそそる匂い、それらをかき混ぜるように行きかう通行人。

 活気が無いよりはマシだが、人混みは嫌いだ。とっとと通り抜け


「あの、レーヴェさん」


 ようとしたその時、ミィカがコートの裾を引っ張る。


「んだよ」

「えと……すごく良い匂いがしますね? ちょうどお昼時ですし、一緒に食べません?」

「後にしろ。まずは依頼、その後に宿を確保してからだ」

「ま、魔術は燃費が悪くてですね……歩き通しの後に正式のシングリムを2回も使ってしまったので、大分お腹が減って、正直キツイと申しますか……」

「ちっ……」


 そういや、昨日の晩メシも俺と同じくらい食ってたな。体格の割には良く食う小娘だと思っていたが……。

 舌打ち交じりにレーヴェは露店に向かい、適当に料理を買う。

 肉厚な肉を串焼きにした、レーヴェの目から見てもボリュームのある料理だ。それを手にミィカの元に戻る。


「ほらよ」

「あ、ありがとうございます……あの、レーヴェさんは食べないんです?」

「後でいい。おら、行くぞ」


 彼女は依頼主であるので、本来はその意思を尊重するべきだ。

 だが、彼女はこちらに闘い方の教えを乞う身でもある。つまり自分は師だ。あまり甘やかすべきではない……はずだ。

 扱いが面倒だな、と心中で吐き捨て、レーヴェは歩みを再開する。ミィカも肉を美味しそうに頬張りながら後に続いた。

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