少女の告白

 ミィカは大都市であるアイレムで暮らしていたが、ある日母親を亡くした。彼女は母親を死に追いやった男に復讐する事を誓った。

 そして今日、と言うよりもついさっき、その男に魔術で闘いを挑んだが返り討ちにされた。このまま母親の後を追う事になるのか、と半ば諦めた時、母親の形見だというペンダントが光を放ち、ミィカはその中に吸い込まれた。

 そして次の瞬間には、レーヴェとごろつきの前に落ちていた、と。拙い語り口のミィカの話を纏めるとこんな感じだろうか。


「ふむ……」


 レムディプスは……いや、このアランシア地方呪われた地は、治安が良いかどうかと言われたら、間違いなく〝否〟だ。


 魔力に汚染されて変異した強力な獣、〝魔獣〟が毎日のように人里を襲っている。『魔術ギルド』を始めとした勢力が対策を講じてはいるものの、相手は古くからアランシアに根付いて牙を研いでいる野生の権化。易々と防ぎきれるものではない。

 そして、心が荒めば人が人を殺すなんて事は幾らでも起きるものだ。食い扶持をなくしたごろつきや傭兵が野盗となって野に蔓延り、善良な人間の命を脅かす。

 かと言って安全なはずの街ですら、貴族を始めとした権力者同士の陰険な権力争いが繰り広げられ、時に庶民が巻き添えとなって飢え苦しむ。


 もしもミィカがその立ち居振る舞い通り、貴族に連なる家の出だとすれば、この復讐もまたそういったうざったい何かに端を発するのだろう。貴族同士の陰険な権力争いは、国は違えどどこも似たようなものだ……が、


(気になるな……こいつ、何を隠してる?)


 彼女の話は確かに筋が通っている。腹芸が出来ない性格のようだし、嘘をついている可能性も恐らくない。

 だが、本当の事を言っていない、そんな印象も受ける。全ての説明が抽象的というか、話せない部分をぼかしているというか。


(ふん、とりあえず主導権は握っておくか)


「幾つか問う。それ次第で依頼を受けるかどうか決める」

「はい、どうぞ」

「まず、お前の殺したい相手、そいつは何モンだ?」

「……魔術師ですわ。わたくしよりも高等な魔術を用います」

「そいつの素性は? 魔術師って事はギルドの魔闘士グラディエーターか?」

「それは……」


 押し黙る。言えない……いや、言いたくない、だろうか?

 まぁ、相手の事情全てを把握する必要はない。変に事情を知って情が移ったり、場合によっては更なる面倒事に巻き込まれてしまうからだ。

 特に、今回みたいに政治が絡んできそうな事にはなおさら首を突っ込むべきではない。


「あ、あの! わ、わたくしは、その……っ!」


 こちらが訝しんでいる事を察知してか、焦った様に身を乗り出す。オニキスの瞳には涙が滲んでいて、より一層ランタンの光をキラキラと反射していた。


「あー分かった分かった。じゃ次だ。結局、依頼内容はどうなる? お前の仇を俺に殺して欲しいってか?」

「あ……えぇと、ですね。先程も申し上げましたが、わたくし自身の手で仇を討ちたいのです。ので、レーヴェさんにはわたくしを鍛えて欲しいと」

「鍛える? 回りくどい話だな」


 自分の手で母親を死に至らしめた輩を殺したい。その考え方は分からないでもないが。


「つーか、前提として俺は魔術は門外漢だっつったろが?」

「はい。わたくしもそこに期待はしていませんわ」


 ……こんな小娘に正面から期待してない、と言われるのも、それはそれでムカつくな。


「あなたは賞金首だそうですが、わたくしを助けてくれたのです。きっと善良な人なのでしょう」

「目障りなガキを排除しただけだ。助けた覚えはねぇな」

「ふふ、そういう事にしておきますね?」


 全部分かってますから、とでも言いたげな目。あぁ鬱陶しい。殴りたいが、依頼主となるかもしれない相手だ。ぐっと堪える。


「小娘。これは忠告だが、その能天気な考え方をどうにかしねぇと死ぬぞ」

「また小娘呼ばわり……まぁいいです、ご忠告どうも。で、その小娘よりも賞金首のあなたの方が確実に闘いに慣れている。そうですわね?」

「……まぁ、な」

「でしたら、その経験を活かしてわたくしを鍛えて下さいな。魔術の修行についてはわたくし自身で何とかしますから、それ以外の部分をお願いします」

「ふむ……」


 こいつなりに少しは考えているわけか。あくまで少しは、だが。


「……次。お前はアイレムから一瞬で移動したらしいが、逆にここからアイレムまで移動できるのか?」

「それは無理ですわ」


 ちゃり、と音をさせて首から提げたペンダントを手に取るミィカ。

 大きな赤い宝石。恐らくはルビーだろう。それを中心に細かな意匠、装飾が施されていて、高価なモノである事が一目で分かる。


「わたくしをここまで運んだのは転移魔術ワープだと思います。このペンダントはその魔術が込められた、緊急時に自動的に発動する魔術具でもあったのでしょう」

「で、それを身に着けているお前が危機に瀕した為に発動した、と?」

「恐らくは。ですが、このペンダントからはもう魔力が感じられません。ここからアイレムはかなりの距離ですし、使い果たしてしまったのでしょう」


 地図で計算すると、ここから大都市アイレムまでは直線距離ですら徒歩3日。実際の道のりだと一週間は掛かりそうなほどに遠い。その距離を一瞬でゼロにした転移魔術とやらがいかに頭のおかしな代物か、考えるまでもない。


「そうか。だが、そいつは魔術の一種には違いないんだろうが? 魔術師であるお前は使えないのか」

「分類上は基本魔術ベーシックですけど、実質応用魔術アレンジみたいなものですし……すみません」


 ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げる。汎用だの専用だの、聞き馴染みの無い用語が出てきたが……まぁいい。掘り下げたら長くなりそうだし本筋からも外れる。


「じゃあ最後だ。金を払うと言ったが、報酬は?」


 レーヴェは、一番重要な話を切り出した。

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