便利屋

創流は、物心ついた時から独りぼっちだった。


両親はどこにいるか分からない。どこかで野垂れ死んでいるのかもしれない。どちらにしろ、創流には関係のないことだ。


吉五郎や下町の世話好きな人々が育ててくれた。この綺麗な顔も役に立った。生きる為になんでもして、その過程で火薬の扱いを覚えた。


上に聳え立つビルに住んでいる人々を、羨んだことがないと言えば嘘になる。100階に踏ん反り返っている北泉総理が憎くないと言えば嘘になる。


でも創流は、生きていたいから、死ぬのが怖いから、なにもしないでぬくぬくと生きている。


確かにこの国はどこかが軋んでしまっていると思う。上に立つことに馴れて、下に戻っていくのが怖い人ばかりだ。一度人の上に立つ快楽を知るとなかなか抜け出せないのは容易に想像できる。


間違っているのなら、正すべきだと思う。ただし、それを実行するのは創流ではない。どこかの誰かが、我慢できなくなった誰かがやってくれることなのだ。


正されるその日まで、創流はなんとか生き延びれば良い。なんとか耐え忍んで、傍観者になれれば良い。


自分でも他力本願だとは思っていた。それを、目の前の、たった15歳の少年に突きつけられた気がした。


「ーー本気で言ってんのか?」

少年は、創流を見上げて不機嫌な顔をする。

「あんたら大人がなんもしないんじゃないか。俺はもう我慢できない」

「死ぬぞ」

「まだ決まったわけじゃないし」

ほとんど決まっているようなもんだ、と創流は思う。3回、同じ人が依頼してきたことはない。お前もそうなる、と言いかけ、寸前でやめた。なんて声をかければ良いのか分からない。


この少年は、もう覚悟を決めているように見えた。創流に依頼してくる、阿呆なテロリストと同じ目だ。


なに言っても無駄だ、と創流は感じた。俺の薄っぺらい言葉が少年をとめられるとは思えない、と言い訳してみる。大体、とめる義理はなかった。


「やめないんなら、精々死なねぇように頑張んな」

創流はそう言って少年に背を向けた。

少年がなんて答えたかは聞こえなかった。

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