No.118 シー族の村

「お前、シー族だったのか……」




うちは耳のある少女の全体を見ながら、そう呟いた。


シー族。

それはうちにとっても世界中の人間にとって謎の族として知られていた。

どこで暮らしているかはっきりしない。

どのような生活をしているのか分からない。

彼らの姿が分かり、どこに住んでいるのかだいたい検討が付いているものの誰も彼らの住処には着いたことはなかった。

その族の1人が目の前にいる。

うちにとってチャンスの大チャンスだった。

しかし、ひとまずその好奇心は抑えることにする。




「で、お前こんなところにいるんだ??」


「えーと、私はお願い、お祈りをしていたのです。消えた兄のために」


「そういや、今さっきこのサンディを見ながら、兄貴って叫んでいたな」




うちは隣に寄ってきたサンディの頭をポンポンと撫でる。

サンディは嬉しいのかしっぽをフリフリしていた。




「ええ。兄もシー族でして、変身するとその犬のようになっていましたので」


「あーそうか。シー族は完全な動物になることもできるんだったな」




シー族のものは特定ではあるが、1つの動物に完全に変身できる。

ほとんど本での知識であるが、シー族と話したことのある人物が書いた本にはシー族にはネコ科やイヌ科の動物に変身する者が多いのだそう。




「その犬はライトムーンですよね。兄も変身可能なのはライトムーンだったんです」


「それで、サンディを見て兄貴って叫んでいたのか……」




サンディは大人しいかと思えばワンワンと吠えて暴れているときもあったが、うちは「静かにしろっ!!」と怒ると大人しくお座りをしていた。




「それでその兄貴はどうしたんだ?? お祈りしていたようだが」




すると、彼女はどこか寂し気な瞳で冷たい地面の方を見る。

しかし、顔をバッと上にあげ、うちに柔らかな笑みの顔を向けた。




「良ければ、私の家でお話ししませんか?? こんな夜中ですが」




ホワイトネメシア国の王城から抜け出し、行く当てのないうちは首を縦に振り、猫耳のある彼女とサンディとともに森の奥へと歩いて行った。




★★★★★★★★★★




彼女の名前はリッカ・V・セントシュタイン。

彼女はうちと同い年で、双子の妹と1人の弟、そして兄がいるのだそう。


うちの前を歩くリッカは歩いている途中に立ち止まって手を伸ばすと、何かを呟くとまた歩き始めた。

また、お互いの話を始める。

自己紹介をしていなかったのでうちの名前(もちろん、ホワードの方)を言うと、リッカは聞くなり「まぁ」と感嘆の言葉が口から洩れる。




「うちの家を知っているの??」


「ええ。ホワード家の方々はトッカータ王国と関係がありますので、情報は耳にするんです」




リッカはかわいらしく頭にある自分の耳をちょんちょんと触る。




「トッカータ王国??」


「あ、着きました。ここです」


「おぉ」




森を抜けるとすぐに目に入ったのは見上げるほどの大きな木。

その大木の幹には窓や階段を作られており、窓からはまだ起きている人がいるのか温かな明かりが漏れていた。

その大木の周辺に屋根がカラフルな木造の家が立ち並び、それを囲む背の高い木々は空から村を隠すかのように生い茂っていた。

夜中であるせいか見た目が温かいわりには石畳の上に人の姿はなく、しんとしている。




「アメリアさん、こちらですよ」


「ああ、わかった」




うちはリッカに案内されるとその村にサンディとともに足を踏み入れたのだった。

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