No.106 大変です!!

あの後、うちはサンディの上に乗って学園に向かい、サンディを自分の小屋に返してやった。

幸い、サンディの小屋の近くには巨大犬を恐れて人があまりやって来ない。

うちはどうしようかとサンディの体に隠れて考えていたが、決意してサンディにおやすみを言い小屋を去った。


まぁ、屋根の上だったら気づかれることはないだろう。


そう考えたアメリアは屋根の上を忍者のごとく駆け、自分の部屋の上まで来た。

誰にも見られた様子もなかったので、3階にある自室に戻った。

隣の部屋には明かりがなかった。


ふぅー。

よかった、

よかっ……た??


うちが窓から侵入し戻ると真っ暗な部屋の中に一つの明かりが見えた。

そして、人影も見えた。




「アメリア様、どちらに行って……ってアメリア様?! その髪はっ!?」


「ああ。ちょっとやらかしてな……」




うちがそういうとオレンジの明かりが少し揺れた。

薄暗くはっきりとは見えないが、ティナはきっと驚きの目でこちらを見ている。




「アメリア様、まず着替えを」




動揺しながらもメイドの仕事をきちっとこなすティナ。

うちはティナの提案に従い、池で濡らしてしまった服を脱ぎ、新しい服に着替えた。

アメリアは着替えるとソファの上に大胆に座る。

そして、今までのことをティナに簡潔に説明した。




「そのご様子だと指輪を失くされた……」


「そうだ。気づいた瞬間、肝が冷えた。久しぶりにあんな思いしたぞ」




うちがそう言うとティナが「私はしょっちゅうそんな思いをしております」と呟く。

なぜそんな思いをするのかさっぱりだったが、それよりも指輪のことを話した。




「今はまだあの池に人がいる。噂のせいで夜に訪れるやつが多いからな」




今日の昼にルイと行った時、人はほぼ訪れることはなかった。

来たのは池の様子を見に来たおじいちゃん先生ぐらい。

その時の先生はうちを見て顔が青ざめていたけど。

なぜかは知らん。




「だから、明日昼間に探しに行く」


「え、それはさすがにまずいですよ。私が探しに行きます」


「それこそまずい」




もし、ティナが探しに行ってしまうと、うちの部屋にルイでも来たら即アウト。

誰も止める人がいなくなる。




「だから、うちがフードでも被って探しに行って、お前が部屋の前で誰も入らせないようにするんだ。『アメリア様はご気分が悪いそうです』って言って去ってもらうんだ。そしたら、バレない」


「はぁ……なるほど」




ティナは納得したのかしてないのかはっきりとしない返事をする。

ソファに座っていたうちは立ち上がり、フカフカベッドに移った。

そして、すぐさま暖かな布団の中に潜り込んだ。




「だから、今日は寝る。おやすみ」


「相変わらずですね。おやすみなさい」




ティナは優しく言って明かりを消し部屋を出ていく。

ドアの閉まる音を聞いてうちは目を閉じた。

久しぶりに長い髪で寝ると邪魔くせぇなと思いつつ眠りについた。




★★★★★★★★★★




「アメリア様、大変です!!」




うちはソファの上に座って朝から優雅に読書を楽しんでいた。

珍しくフィクションものを読んでいる所だったのだが。


うちは本から目を離し、部屋に入ってきた彼女に目を向ける。

迎えに来たルイを追い払うため部屋の外にいたティナがドアの前に立っていた。

彼女の表情からは焦りと危機感を感じる。




「どうしたんだよ、そんなに急いで」




うちは本を開いたまま膝の上にそっと置く。




「それが……」




うちはティナの話に静かに耳を傾ける。

ティナは焦りつつも淡々と話してくれた。

しかし、うちは最後まで聞くことができず、思わず立ち上がってしまった。




「池に人が集まっているだって??」




こんな寒い時期に??

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