ファイル5 CからのV
No.103 C
C。
それはうちの本来の名前アメリア・C・トッカータにあった文字。
なんの略か知らない。
かの有名な海賊少年マンガをまねて、公式が悪役令嬢のうちにノリでつけられたものだと思っていた。
あの時までは。
★★★★★★★★★★
「姉さん。週末はどうするの??」
昼休み。
アメリアはいつも通り義弟のルイとともに昼食を取っていた。
妖精の島騒動から2か月が経ち、12月になって完全に冬になっていた。
いつもなら外の庭で昼食を取っていたのだが、寒くてそうもいかず食堂で食事をとっていた。
うちは大好きなカルボナーラ。ルイはサンドイッチを食べたいた。
「週末?? ああ、ニトとちょっと……」
「ニト王子??」
うちがニトの名前を出すと途端にルイの背後に黒いオーラが出てきたような気がした。
笑みを見せているが目は笑っていない。
「どうかしたか??」
「……ううん。なんでもないよ。それでニト王子と何をするの??」
「アイツとアイツの実家の方に行くんだ。アイツの家には珍しい
ニトの実家、つまりホワイトネメシア国。
そこには北の国ならではの鉱物や植物などがあることを聞いていた。
トッカータ王国やウィンフィールド国にはないものがあるとか。
うちはいつか行ってみたいなと思っていたところにニトが実家に来ないかと誘ってきたんだ。
『アメリア、週末空いてるか?? 空いていたら俺の国来ないか?? 兄さんがあんたに会いたいんだとよ。それに……』
と最後はなぜか濁されたが、ニトにそう言われた。
通常こんなことでうちは行ったりしない。
時間の無駄。
ホワイトネメシアにそんな目的に行くぐらいなら、
その時、うちは二つ返事で了承した。
「えっ。姉さん1人で行くの??」
「そりゃそうだ」
「僕も連れて行ってよ」
サンドウィッチを食べ終えたルイは必死にうちに訴える。
そのルイの表情はマジな顔をしていた。
連れて行ってと言われてもな……。
「だめだ。お前には嫁探しが待っているだろ。そっちに時間を使えよ」
「嫌だ。ていうか、姉さんここでその話は止めて……」
「なんで……あ」
周囲を見渡すと他の令嬢たちが獲物を狙っているかのごとくルイに熱い視線を送っていた。
ルイは嫌そうに煩わしいそうにしている。
ルイってやっぱモテるんだな。
うちは攻略対象者に殺されたくはないと思っていたが、別に攻略対象者が幸せになってほしくないなんて思ったことはない。
もし、ルイに好きなやつがいるのなら応援してやりたいし、エリカが好きっていうのなら全然構わない。
もちろん、うちの手伝いはしてほしいと思うが、好きなやつと過ごす時はちゃんと過ごしてほしい。
だから、その好きなやつと婚約者にしてやりたいんだけど。
うちは何カ月前のことと思い出す。
「お前、実家に帰ったとき嫁探ししてたんじゃなかったのか??」
「姉さん!! ここでその話は止めてって言ってるでしょー!!」
「その様子だと婚約者は決まってないんだな」
「姉さん……お昼から授業ないよね?? どうするの??」
「昼は池の方にちょっくら行ってみようかな……って。話を変えようとしてんじゃねーよ、おい」
「じゃあ、そこで話の続きをしよう」
そして、うちは素早くカルボナーラを食べ終え、仕方なくルイとともに池の方に向かった。
外は寒いが、幸い日が出ていたので動いていればなんともなさそうだった。
学園の近くにある池は誰もいる様子はなく、静かな雰囲気だった。
なぜ、うちは池に来たかったのか??
それはというと……。
「姉さん、池の中をじっと覗き込んでどうしたの??」
アメリアは八つ橋の上でしゃがみこみ、池の中を観察していた。
そのアメリアの隣に立って姉の様子を見ていたルイはアメリアに話しかける。
「ほら、噂でここに金の鯉がいるって言われているだろ。そいつを見に来たんだよ」
「……」
うちが金の鯉について話すとルイが黙っていたので、どっかに行ったのかと思い横を見上げるとルイは立っていた。
ルイは少し笑みをこぼしながらも呆れた表情を見せる。
「姉さん、僕が聞いた噂ではその金の鯉は夜にしか現れないって聞いたんだけど」
「そうか。それで見えないんだな。よしっ」
うちは八つ橋を駆け、池周辺の草むらから木の棒を取ってきた。
その木の棒を使い、うちは池の中をかき混ぜる。
「……姉さん、次は何しているの??」
「金の鯉を起こしてんだ。池の底で眠っていると思うから。で、さっきの話の続きを話せよ」
「え?? 今??」
「そうだ。お前の婚約者決まってないんだろ?? 誰かいい人がいるのか??」
うちの目線は池の底に向けつつ、耳をルイの方に傾ける。
「いい人……」
ルイはうちに言うのが恥ずかしいのか口籠っていた。
「姉さんがいい人……」
「まぁ、うちはいい人だよな。うんうん、分かるぞ」
さすがうちの弟。
血が違えど姉弟愛は素晴らしい。
うちが縦に頭を振り、頷いていると隣からはぁ……とパンクしたタイヤの空気が抜けていくようなため息が聞こえた。
「でも、うちが聞きたいのは婚約者にしたいようないいやつだよ。誰だ??」
アメリアが顔をルイの方に向けると、ニコリと笑顔を見せた。
意味が分からず、アメリアは首を傾げる。
「秘密にしておくよ、姉さん」
気になったうちはその後何度も聞いた。
でも、ルイが婚約者にしたい人を教えてくれる様子はなかった。
エリカだといいなぁ。
アメリアはぐるぐると木の棒で池をかき混ぜながら、そう思ったのだった。
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