No.97 扉は開く
「さぁ、悪魔よ。出ていけっ!!!」
女王を救える。
うちの手のひらは女王の頬の目の前まで来た。
その手は微量ではあるが光を放っていた。
この1発を当てれば……。
その瞬間、うちの頬にとんでもない痛みが走った。
殴られ久しぶりに感じた激痛。
うちはそのせいで態勢を左に崩し、倒れそうになるが回転し何とか退避する。
くそっ。
あと少しだったのに。
うちは態勢を立て直し、女王と邪魔を仕掛けてきた奴と距離を取る。
女王はさっきの切羽詰まった様子とは違い、奴がやってきたせいか少し余裕のある表情をしていた。
その表情を見てうちは左手でビンタできなかったことを後悔する。
女王に取り付いた悪魔を追い出そうとしたのに、邪魔をしてきた奴とうちは以前会ったことがあった。
というか数時間前だが……。
奴はいかにも鍛えていますと主張しているような厚い筋肉があり、うちが最も印象に残っているあごのチョビ髭があった。
そう、そいつはさきほどマティアの首を絞め、ルースを操りうちに得体のしれない注射を刺させたあのおっさん妖精だった。
ここに来るってことはそれなりに地位もあるんだろうな。
彼は胸に輝くさまざまな勲章を付けた深緑の軍服を着ていた。
状況は一変し、うちの方が不利になってしまった。
彼らが魔法も何も使えない、それならうちは余裕で勝てるのだが、彼らは人間には使えない妖精魔法が使える。
どう行こうか……。
アメリアは腰を低くし、相棒のバッドを持ち直す。
敵は2人。
そのうち1人は悪魔祓いをしなければならないから、光魔法を使う必要がある。
光魔法はあんまり得意じゃないんだよな……。
でも、やんなきゃいけないからな。
頑張るしかない。
よしっ。
うちは心の中で決意し走り出そうとした時、
「女王様、久しぶりですね」
「あ」
おっさん妖精の後ろに位置するうちが壊した窓からマティアが入っていた。
マティアの背中にあった羽は消え、手元には長剣を持っていた。
「陛下、この男に何したんですか?? 私は彼に勝てなかったのですが」
「長いこと戦わなかったからお前が弱くなったのじゃないか??」
女王はそういうと鼻で笑った。
それに対しマティアは冷静な表情でおっさん妖精を見る。
マティアはちょっとおっさん妖精を見ると、女王の方に顔を向けた。
「陛下、この男、覚醒剤なんて使ってませんよね??」
え??
覚醒剤??
その言葉を放ったマティアはバカにしているような笑いではなく、悟ったような笑みをしていた。
うちはこの世界にも覚醒剤が存在することに衝撃を受ける。
このおっさん妖精が覚醒剤を……??
覚醒剤。
前世では戦争時に士気向上のため使われ、戦後も日本で蔓延してしまった薬物。
日本で蔓延してしまったのは日本人の好みにあっていたからというのを聞いたことがある。
副作用は薬物の中でも強力なヘロインほどではないが、幻聴や頭痛、蕁麻疹などがあり、重症化すると寝たきり状態になる。
そんなものをこのおっさん妖精が使っているのか……??
「ああ。使っているよ。彼は覚醒剤を使うことで一段と強くなるのでね」
女王がそう言うと、マティアは首を下げはぁと溜息をついた。
「アメリア、この人、女王陛下ではないよ」
マティアはカチャっと鳴らし長剣を握る。
「アメリアが言った通り、この人は悪魔に囚われてるね」
マティアがそういうとうちは大声で答えた。
「だから、そうだってさっき言ったじゃないか。この女に光魔法の悪魔祓いを当てればこの女王も助かる」
「分かった。この男を私が相手するから。アメリアは女王を」
「おう」
うちは返事をすると、真っ先に女王のもとに走る。
すると、おっさん妖精が突然横からうちの前に現れた。
しかし、マティアがそいつをドロップキック。
うちはその上をジャンプしてかわし、女王の所へ。
幸い女王は落とした剣を拾うことなく、1本の剣のみを所持していた。
女王は剣を持たない右手で闇の力を集め、構えていた。
「さっきとは状況が違うからね。あなたの攻撃は予想がついてるよ!!」
女王は声を荒げながら、うちの方に走ってくる。
アメリアはバッドに力を集め、光魔法を使う。
女王に傷が入るかもしれないが、仕方ない。
悪魔に憑りつかれるよりマシだろっ。
「おりゃあぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!」
うちはバッドを思いっきり振り上げる。
そして、うちは女王の目の前に行くとバッドを振り落とした。
うちのバッドと女王の長剣は勢いよくぶつかり、バッドが重くなる。
この瞬間に……。
アメリアは素早くポケットからナイフを出す。
そのナイフに触れるとバッドと同じように光をまとっていた。
このナイフで悪魔祓いを……。
「?!?!」
うちが女王に向かってナイフを投げようとした瞬間、玉座とは反対側にある大扉が勢いよく開いた。
うちも女王もその扉の方を向く。
「アメリア様っ!!! お待ちくださいっ!!」
そう叫んでいたのは金髪の美少女エリカだった。
エリカの後ろにはフレイ、テウタ、ハオラン、ルイ、クリスタ、それにさっきまで一緒にいたルースが立っていた。
うちを呼んだエリカは女王に向かって手を伸ばす。
その様子は伸ばした右手に力をためているように見えた。
「女王様、助けますっ!!!」
エリカは必死に叫ぶ。
「悪魔さんっ!! さよならっ!!」
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