No.69 熱い視線にツッコんではいけない

「しねーよ、バカ」




ニトから婚約を申し込まれたうちははっきりと断る。




「フレイ王子とは形式だけの婚約なんだろ⁇別に相手は誰でもいいんじゃないのか⁇」


「いや、そうだけれど……」




あんたと婚約したら嫌な予感がすんだよ……。




「なぁ、俺は2つの顔を知ってるわけだし、好都合じゃないか??」


「……」




うちが黙っていると背後から声が聞こえた。




「ニト王子、2つの顔ってなんの話ですか??」


「!?」




後ろを振り向くと、義弟ルイが立っていた。

ルイはこちらを不満げな顔で見ている。




どうしてここに……??

追ってきたか……??


すると、ニトは人が変わったように王子らしく話始める。




「いや、アメリア嬢は真面目な面もあれば、やんちゃな面もあるよねっていう話してたんだ」


「へぇー。ニト王子は姉さんに婚約者がいることはご存じですよね??」


「うん」


「じゃあ、なんでそんなに姉さんに寄っているんですか??近くないですか??」




ルイがそう尋ねると、ニトはニコリと作り笑顔。


さすが、王子っすね、ニトくんよ。


うちは心の中でニトの営業スマイルに拍手をする。




「アメリア嬢と仲良くしたいなと思ってね」


「それだとしても近いです。さ、姉さん授業が始まってしまうよ、行こう。ニト王子、お先に失礼します」


「へ?」




うちはへんてこりんな声を出してしまう。

しかし、ルイは気にすることなくニトからうちの手を奪い取り、引っ張る。

そして、ずんずんと植物園の出口へ戻っていく。

後ろを見るとニコリと笑うニトが座っていた。

その時、ニトの口が動いていたのだが、

『また後で、返事をくれよ』

とでも言っているかのようだった。


うちは後でと言わず、ここで答えを示すために中指を立ててやろうと思ったが、実行しようと思った時には植物園を出ていた。


前を向くとルイの背中。

その背中には三つ編みにした一部だけ長い毛先が赤の髪。

毛先はキレイで、枝毛が一切なかった。



なんだか……








うちよりも女子だな。




アメリアがルイのその美しい髪にうっとりしていると、黙っていたルイは口を開いた。




「姉さん、気をつけてよ」


「??」




うちはルイの言った意味が分からず、「ああ」と適当に答えた。

すると、ルイははぁと溜息をつき「絶対分かってないね」とつぶやく。




うん、ご名答―☆☆

分かってないぞ、うん。




「うちが分かっていないことによく気が付いたな」


「はぁ……」




うちを引っ張るルイは顔を暇な片手で隠しており、うなだれてように見えた。


後ろからかよく見えなかったが、

絶対うちのことを呆れていることは分かった。




分かんないものは分かんないだから、仕方ねーだろ。





★★★★★★★★★★





ルイに連れてこられるまま、うちは教室に来て、静かに席に座った。

授業の始めに先生がいつの間にか植物園から戻ってきていた編入生のニトを紹介していた。

北の国の王子の編入にクラスがざわつく中、うちは静かにその様子を見守っていた。

四方八方から熱い視線を感じながら。


ぼっーと見つめてくるフレイ。

さっきのことがあったせいか気まずそうな感じでこちらをちらりと見てくるエリカ。

まだ不満げな顔をしているルイ。

いつもどおりの静かな視線をくれるハオラン。

変人を目撃しているかのようなアゼリア。

そして、心配そうな表情を向けるクルス兄妹。


それでもうちは何も発することなく、無表情を保った。


ああ、分かってる。

ここ数日の悪役令嬢っぽいキャラからもとに戻ったからそんな熱いあっつーい視線をくれることぐらい。


アメリアが必死にツッコミを入れないように耐えていると自己紹介が終わったニトと目がってしまった。


あ。


ニトはこちらに向かって微笑む。

うちはとっさに目をそらしたのだけれど、案の定、彼はこちらに歩いてきた。

ニトはうちの席に近づくと、周囲を見渡し、うちの斜め前に座る女子生徒に話かける。


あ。































すると、女子生徒は他の席に移動し、ニトはそこに座った。




「アメリア嬢、これからよろしくね」




うちは無理やり笑顔を作り、「どーも」と答える。




あー、最悪。




アメリアは両手で顔を隠し、深い溜息をつくのであった。

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