No.53 花の香りは君から

「冗談でしょ……。魔王城なんて」


『えー。フレイ様、魔王なんて怖いんですかぁ』





スカイぺが起動しているパソコンからはバカにしているようなクリスタの声が聞こえる。





『クリスタ!!なんてこと言ってんだ!!すみません、フレイさん』


「いいよ……。実際、怖いし……ただ」





現在魔王は弱体化しており、僕の曽祖父が倒してからというものの一切動きがない。

魔王に勝ってから100年は経っているらしいが……。





「魔法持ちの者が魔王城に近づくと、魔王に魔力を吸い取られ、魔王が復活するじゃないか」


『え、そうなんですか?』

『そうらしいですね。私、その話を聞いたことがあります』


「耳にはしたことあるだろう?で、僕が近づき魔王なんて復活させたらハオランが……」


『え、ハオラン?』『ハオラン様?』














ハオランアイツが絶対激怒するんだ。それが怖い」





僕がそういうと2人とも一時黙っていた。


いや、ほんとなんだって。

魔王復活させたことないけど。



「おーい、お2人さん。聞こえてる??」


『フレイさん、意味が分かりません』

『ほんとですよ。普段は穏やかなハオランさんが激怒だなんて想像がつきません』



確かにそうだけど。














んっ!?





いつの間にか画面を見ていたフレイは突如夕日が隠れた海を見る。





『フレイさーん、どうかしたんですか?』


「感じる……」


『何をですか??』

『お兄様、分かってることじゃないですか。アメリア様のことですよ』





兄ルースが真面目なトーンで話す一方、クリスタの声には笑いも雑じっていた。





「ふざけんてじゃない、クリスタ。オーラを感じるんだよ、魔法のオーラがな」





オーラを感じる方向をじっと見るフレイは明かりが見えたが小さくどこの船なのか判断できなかった。





「ごめん、双眼鏡を取ってくれる?」





フレイは付き人に頼み双眼鏡を受け取る。

そして、双眼鏡を使い、明かりの方向を見た。






「!!!」





★★★★★★★★★★





「俺はそろそろ仕事を再開しなきゃな」





萌黄髪ナイルとシアン髪カンデラは捕らえたアメリアたちがいる部屋に向かっていた。





「そうだね、記憶消去は今いる部屋とは別にする?」


「ああ、もしもあの効力が切れてエリカという女が邪魔してきたらいけないからな」


「なるほど、用心深いね」


「失敗したら怒られるからな。いや、怒られるだけじゃすまないか」





カンデラは両手を上げ、ため息をつく。

その様子を見て、ナイルは他人事のように笑う。





「これ、君のお兄さん関連でもあったね」


「そうだぞ。忘れんなよ」





カンデラはナイルの肩を叩くと走っていった。





「僕も失敗も放棄もできないんだよね」





ナイルはそうつぶやくと、歩いてアメリアたちのいる部屋に向かった。





★★★★★★★★★★





木の床を歩く音。

スローテンポの揺れ。

そして、ほのかに香る花の匂い。



それを感じつつ、うちは瞼を開けると青い綺麗な海のような目をしたシアン髪の少年の顔が目の前にあった。

少年はじっとこちらを見ていた。





「ああぁーー!!!えっーーーー!!!」





どういう状況っ!?

てか、あんたから花の香りしてたん!?





「うるさい」





少年はそういうと何食わぬ顔で正面を向いた。





なんなんだっ!?

てか、うちはなんでコイツに横抱きされてんだっ!?





シアン髪少年にお姫様だっこされているアメリアはあたりを見渡した。

さきほどまでいた部屋とは異なり廊下は全て木でできており、窓もあった。





暗い……。

あれからどのくらいたったんだ??





テレパシーを使い疲れ果てたアメリアは寝ていたというのと、寝かされていた部屋に窓がなく時間を確認するものがなかった。





きっと、ティナが心配しているんだろうな。

あ、サンディに餌をやってない!!

ヤバっ!

餌をやってなかったら、アイツ、餌を探しに暴れだす(はず)!!





「おい、お前、うちを降ろせ!!」


「はい」


「うわっ!!」





少年は意外にも素直に離したが、アメリアはお尻から見事に床に落ちた。





「いてぇ。何してんだよ、お前っ!!!」


「あんたが降ろせっていうもんだから」





少年は突っ立ったまま、アメリアを見下げる。





「降ろし方ってもんがあるだろ……ん?」





アメリアが起き上がろうとした時、あることに気づいた。



えっ。

力が入んない。

首以外動かないぞっ!

またか!!



ナイルに襲われたとき以来体が動いてくれないことを思い出したアメリアは少年を睨む。





「お前、さては分かってやったな」


「なんのことやら。まぁ、いいだろ。しゃべれるようにはしてやったんだし」


「おまえっ!!ん!!」






アメリアが叫ぼうとしたその時、少年はしゃがみ込み寝転がるアメリアの口を手で塞いだ。


























「君さ、状況分かってる?」





少年は獲物を狙う鷹のような目をしていた。





うわぁ。

コイツ、

ヤクザの組長みたいな目してるなぁ。

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