第60話-「あなたにしかできないのです!」④

「なんであんた……あそこに俺が来るのをわかってたみたいに」


 篤は空港のロビーをかけながら中野に尋ねた。


「妹尾さまから連絡があったのです。もうすぐ早乙女さまがこちらに来られると……」

「竜也が……?」

「はい。例の一件の際に何かあった時のためにと連絡先を交換していましたから。ですが……本当に来られたときにはかなり驚きました。優月お嬢様が発たれることは本当なら皆様はまだ知らないはずだったので」

「ああ……。そうみたいだな。なんだ……そういうことかよ」


 そうだ。こうやって優月に会うことができるのも、轟が言いつけを破ってチャンスを与え、クラスのみんなが協力してくれたから。そして竜也が連絡し、中野が今こうして誘導してくれているからなのだ。


「結局俺はいつも誰かに助けられてばっかりだな……情けねえ」

「そんなことはありません!」


 中野は切れる息で後ろの篤に呼びかける。


「それは……誰だって……助けてもらうことくらいあります。そんなことは当然のことです。けど、あなたにしかできないことだってあるんです! 早乙女さまにしかできないから……みんな任せてサポートしているんです! それを情けないだなんて言わないでください!!」


 中野は走っていて呼吸が荒いのか、それとも感情からこみ上げる声の震えなのか、後ろから追う篤にはわからない。


 しかし、中野の声には何か熱い気持ちが込められているように……、篤の優月に対する想いと同様な、それ以上の強い意志を篤は感じていた。


「優月さまは……最後まで無理に笑っていました。さすがに私にもわかります! 泣きたいのを堪えて、私やお父さまに心配をかけまいと、健気に笑顔を作っていたんです!」


 ああ、優月はそういうやつだ。篤は中野の言葉にしみじみとそう思う。


「それを……私はどうしてあげることもできなかった……泣かせてさしあげることもできなかった! 世話係として、この数か月間も優月さまといたのに……そんなこともできなかった……。私の方がよっぽど情けなくて涙が出ます!」


 中野が目の辺りに手を充てて力強く振り払う。その先で滴が光るのを篤は見た。


「でもあなたは違う! 優月さまが早乙女さまをどれだけ想っているか……、早乙女さまの話をしている時どんなに幸せそうな顔をしていたか……、私にはそれもわかります。優月さまを救えるのは……笑顔にすることは……涙を流させてあげられるのは……あなたにしかできないのです!」


 急に止まって振り向いた中野の目が真っ赤に潤んでいることに篤は気が付いた。

 そして、


「優月さまはすぐそこを曲がったゲート付近にいるはずです。あとは……お願いします」


 中野の目をしっかりと見て頷くと、再び駆け出した。

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