ARI

「さあ、仕事の時間だぞ。

 防護服を忘れるな、紫外線を浴びて死んじまうぞ」


「よいしょっと、内勤の奴等を食わせてやらないとな。外回りの担当はつらいよな」


「文句言うんじゃない、オートクラスター銃の安全装置を外しておけよ。

 今日は高次エネルギー結晶体が海岸部で発見されたんだ。戦闘に巻き込まれるかもしれん」


「へいへい、偵察ドローンは人をこき使うのが仕事かね」


 俺はとある財閥系商社のエリートサラリーマンだ。親父のコネで入社して10年になる。

 周りはみんな口が悪いが終末戦争後のこの荒んだ世相じゃ仕方がないってものだろう。


 戦前の世界に出回っていた機械を動かすためのエネルギー結晶というものがある。

 これが発見されるたびに俺たちは遠出をして回収をするのだ。

 特に海洋に散らばったものが流れ着く漂着結晶については各社の領土権主張が無効なため、見つかり次第早い者勝ちというルールになっている。

 大粒の結晶を仕入れて売ればその一年は遊んで暮らせるほどの利益が会社に舞い込むのだ。


-- 今日の収穫は大当たり。

 10メートルはあろうかという巨大な氷柱つらら状の結晶体を見事ゲットし、何十人もで担いで持ち帰る。

 昔なら自動車って運搬具に乗せていたらしいんだが現代において機械を動かすのは莫大な金がかかる。


「なあ、有野。知ってるか?」


「ん? 何を」


「結晶ってさ、舐めたら甘いらしいぜ。

それも、凄く美味いって」


「馬鹿、そんなことしたら俺たちクビになっちまうだろ」


「一回でいいから舐めてみたいなー」


「無駄話はいいから。力いれて運べよ」


 外回りを一生させられる俺たちの職名は【ワーク・アントはたらきあり】。


 あーあ。別に働き者でも何でもないんだよ。俺は。


 ガキの頃、本当は歌が好きだったんだ。

 本気で【吟遊詩人きりぎりす】になりたいなんて思ったもんさ。

 でも大人になってわかるんだ。


 文明とは、絵本の世界のようには出来ちゃいないってこと。


 それが人間社会ってやつなんだ。


-- ARI  完 --

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