双子の姉妹はアメリカン

サマンサ「オネーチャン、シャミセンは持った?」


ロザンナ「アナタこそ昨日みたいにおサイフ忘れてないでしょうね?」 

 

 着物姿で営業先へと急ぐ金髪の姉妹。

 二人一繋ぎに巻いた大きなマフラーがトレードマークの演歌歌手ユニット「アメリカンクラッカー姉妹」だ。


 アメリカ人と日本人のハーフである二人は整った顔立ちと軽妙なトーク、そして堅実な歌唱力で注目を集め、二年前に発表した「五月雨のメリケン墓場」はショート動画サイトで長い人気を博している。


サマンサ「キョーのゲンバは?」


ロザンナ「今日はね、床屋組合のイアンリョコーでのお座敷ステージよ!」


サマンサ「ああー、あそこのクミチョーさんは毎年呼んでくれるからネ」


ロザンナ「またオトトシみたいに酔っ払ってお酌しろなんて絡んでくるんじゃないカシラ」


サマンサ「酒癖は悪いけどアイパーの腕前は東洋一ってもっぱらのウワサよ」


ロザンナ「東洋一……、私たちも負けられナイヨ」 


 目下売りだし中の彼女たちのスケジュールは半年先まで真っ黒。地道に全国を回るステージショーがその人気を支えている。


ロザンナ「どおもー! アメリカンクラッカー姉妹デス!」


サマンサ「いやしかしアレやで、最近は世界じゅう景気わるーてしゃーないわ。トランプさんもエリザベスさんも昼間っからストゼロのんでふて寝してはるワ」


ロザンナ「あのなぁ、うちらこう見えても歌手やで? ナンで景気の話なん?」


サマンサ「いやいやこれからは演歌歌手も新聞よまなあきマセン。ニュースのコメンテーターも夢やないデ」


ロザンナ「何がコメンテーターや。コメツキバッタみたいな顔シテ」


サマンサ 「ダレがコメツキバッタやねん!」


ロザンナ「いっつも学校でおベントウの時間待ちきれんで米ツブ食べとったガナ」


サマンサ「食べてへん! ちゃんとオカズから食べテルわ!」


ロザンナ「シッカリ食べてるやん」


サマンサ「せやけど私ら姉妹の付き合いも白いご飯みたいなもんですワ」


ロザンナ「どういうコト?」


サマンサ「一生(一升)あっても足りまセン!」


ロザンナ「ええこと言うな、イモウト!」


サマンサ「けどなオネーチャン、いくらなんでも一日一升は食べすぎや」


ロザンナ「なんで私やねん、クラッカーカチカチいわしたろか!」 


── 流れ始めるイントロ。彼女たちのステージはこうして幕を開けた。


======


 鳴り止まない喝采を後に舞台を降りる姉妹に歩み寄る影。


女社長「あんたら今日もええステージやったな」


サマンサ「……社長!」


 彼女こそ二人をスカウトした芸能プロダクションの女社長だった。


女社長「近くで商談があったさかい」


ロザンナ「そうですか。客席の反応はどうデシタ?」


女社長「あんたらを岸和田生まれの設定にしたのは正解やったね。関西弁もやっと板についてスターの風格出てきとるがな」


ロザンナ「社長に声かけて貰えなかったら私たち……」


女社長「もうあれから三年たつんやね……あの日、私は御堂筋を歩いていた。

 そしたら路地裏で怪我をしていたあんたら姉妹を見つけて事務所で介抱したんやったね」


ロザンナ「yes、あの時私たち母国の組織に追われていて……」


女社長「外国で仕事されているお父さんの関係なんやて?」


ロザンナ「自由奔放freedomfatherで色んなトコロに怨みを買ったりデ……」


女社長「ええんや。そこで行く宛のないあんたらを住み込みで面倒見たろうって事になって、私も独り身やし娘みたいなもんや思うて」


ロザンナ「こんな私たちを気にかけてクレテ……社長には感謝してもしきれマセン」


女社長「しかし流石は双子や。抜群のハモりに掛け合い。その才能を見込んでデビューしたらとんとん拍子でスターの階段駆け上がってなあ」


ロザンナ「ジンセーはわからないものデスネ」


女社長「さあさ、久しぶりに鶴橋で焼き肉でも食べようないの。タクシー拾おうか」


謎の男「……見つけたぞ。探していた子供達だ」


女社長「あんた誰や?」


サマンサ「はっ! オマエは三年前の追っ手!」


謎の男「お前たちの父親は国際的な犯罪者だ。我々組織の機密を盗みだし楽器ケースに潜んで国外へ逃亡した。人質として身柄を拘束させて貰う!」


サマンサ「no! もう父さんfatherとは何年も会ってイナイ!」


女社長「ちょっと、この子たちに乱暴は許さんで」


謎の男「……手荒なことはしたくなかったがしょうがない、お前たちこの女を黙らせろ!」


女社長「ぐっ!」


ロザンナ「社長!」


謎の男「さあ、こいつを怪我させたくなかったら大人しくするんだ」


ロザンナ「……科学者だった父はアナタ達に技術を悪用されるのを知って研究成果を別の場所に隠シタヨ」


サマンサ「それは人間の遺伝子D.N.Aを強化する二種類の新型生体ウィルス。カストルとポルクスと名付けられたそれをヒソカに国外へと持ち出そうと、ワタシタチの体内へ一時的に移植シタ」


謎の男「……お前たち、いったい何を?」


サマンサ「まさかこんなことになるナンテ、思いもつかなかったデショウネ」


 姉妹は首に巻いているマフラーを投げ捨てた。

 するとあらわになった二人の背中から長い長い紐が伸びて繋がっていた。

 ……まるでアメリカンクラッカーのように。


ロザンナ「これが私たち姉妹の本当の姿real form!」


謎の男「やはり博士は技術を完成させていたというわけか。

 ならば隠してもしょうがない。我々ルフノー社はバイオテクノロジーの軍事転用を目指す大企業、そして黒服の彼等は遺伝子操作で肉体強化されたバイオ兵士だ。お前たちは社の検体とさせて貰う! かかれ!」


兵士「イエス! ボス!」


ロザンナ「いくわよ! サマンサ」


サマンサ「モチロンヨ!」


【ガツン!】


 先頭の兵士が倒れた。姉妹の手にはアメリカンクラッカーが握られている。


兵士「あ、あれは、アメリカン・ウェポン……?」


謎の男「馬鹿野郎! 所詮は子供のオモチャだ!」


 一人また一人となぎ倒される兵士達。


兵士「駄目ですボス! こいつらも強化人間だ、規格外に強すぎる!」


謎の男「もういい、俺がやってやる!

 双子を繋いでる細い紐、あの丸出しの弱点を俺が叩ききってやる」


 そう言うと男はアーミーナイフを取り出し斬りかかった。

 その時、姉妹二人の動きがまるで鏡を見るようにシンクロし高速で回転し始めた。


謎の男「な、何だ! 目が回る!」

 

ロザンナ&サマンサ

「「姉妹神技sisters tech、【フリップ・フロップ】!」」


【ドゴオ!】


謎の男「うッゲェ!」


兵士「うわああ! ボスぅ! やべえ、撤退しろ!」


ロザンナ「私達姉妹は二人でヒトツ。

一糸乱レヌ連携を超人的にまで高メタ究極の生命体へと進化シタノヨ」


サマンサ「ソレガ……」


ロザンナ&サマンサ

「「アメリカンクラッカー姉妹sisters!」」


======


サマンサ「社長、ゴメンなさい。ワタシタチ大切なことを隠してて」


女社長「しかし背中の紐にそんな秘密があったとはな。私てっきりファッションかと思てたわ」


サマンサ「イエス 。お風呂bathroomに入るときはちょっと苦労するケド」


女社長「なんぎやなあ」


ロザンナ「ワタシタチ姉妹の素性がわかってしまったイジョウ、社長に迷惑をかけるわけにはいきマセン。もう歌手活動は引退シマス……」


女社長「ふふ……そうはいかへん」


ロザンナ「……社長?」


女社長「ごめんやで」


 そう言うと女社長はタコヤキ用の長串を取り出してサマンサの首を掴んだ。


サマンサ「うぐ……ヤメテ!」


女社長「ルフノー社は我が芸能プロダクションが取引するテレビ局の大株主でね、あんたらの情報を流したのも私や」


ロザンナ「oh.god.そんな……」


サマンサ「本当のオカーサンみたいにオモッテタ。それなのに……」


女社長「悪いことは言わん、あんたらルフノー社の言うようにしとったら安全なんや。スターへの道も保証して貰えるんやで?」


サマンサ「そんなの、騙されてるにキマッテルヨ!」


ロザンナ「ルフノー社はレーコクな企業よ。社長も口封じで殺されてシマウワ」


女社長「……」


謎の男「くっ……お前らあ……こうなったら、死ねえ!」


 背後から男がナイフを突いた。


ロザンナ「あっ!」


サマンサ「きゃあっ!」


 そこにはロザンナを庇った女社長が力無く横たわっていた。


謎の男「く、くそっ! ずらかれ!」


女社長「あんたら、早く……逃げ、なさい……」


ロザンナ「ナンデ……ナンデ私達のタメに……」


女社長「アメリカンクラッカー姉妹は私の自慢なんや。全国のファンがメリケンのメロディーを待ってるんやで」


サマンサ「いやっ! オカーサン!」


女社長「ふふ……バチが当たったんや。さぁ、行きなさい。

 浪花のモーツァルトの意志を継げるのはあんたらしかおらん……」


ロザンナ&サマンサ

「「社長……」」


 地面に流れる血が止まらない。


ロザンナ「……いや、ひとつだけ助かる方法がアル!」


サマンサ「オネーチャン、もしかして」


 ロザンナが取り出した小型ケースの中には注射器と薬剤が入っていた。


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 大晦日の晩。


司会者「いやー、しかし姉妹の今年の活躍は目覚ましかったですね!」


ロザンナ「これもファンの皆さんの応援とサポートしてくれた社長のおかげデス」


司会者「なんと! 今日はその社長にサプライズで来ていただいています!」


女社長「うちの子達の待ちに待った晴れ舞台やで」


司会者「しかし社長、何でさっきからずっとピョンピョン跳び跳ねてるんですか?」


女社長「あーこれな。今年大きな怪我して一命を取り止めたんやけど、その時の注射の影響で強化人間になってしもてね。

 反発力抜群の【スーパーボール社長】ゆーて業界では有名なんやで?」


司会者「あっ、準備が出来たようですね。それでは今年の日本歌謡大賞グランプリのステージです!」


 まだ暗い舞台上で姉妹は向かい合った。


サマンサ「オネーチャン、いくで」


ロザンナ「……うん。うちら二人でひとつや」


司会者「最後の曲紹介は社長からお願いします!」


女社長「それでは。

アメリカンクラッカー姉妹で、

曲は……!」


── そしてまた、幕が開く。



/ american cracker sisters ─ fin.



※ 本作品は令和2年2月2日のゾロ目の日を記念した自主企画にて公開したものです。

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