こたつと、おせちと、地獄絵図

――それは、大学生の頃の話。


 遠く関西の大学で一人暮らしをしていた僕は、ろくに単位が取れないのも気に留める様子もなく、授業とバイトと、ゲームと野球中継と。好き勝手な日々を過ごしていた。


 九州から出てきたハタチ前後の一人暮らしの男の子。口下手で特にコミュ力なんてあったもんじゃなかったが、地元の友達にはなにかと同情される要素があったようでちょくちょく世話をしてくれた。


 よく考えたらあいつら大体年下だったな。年下に奢られる自分って今考えると一体何だったんだろうな。まぁ実家暮らしの連中は家賃も気にしなくていいからバイト代を全部好きなことに使えてたし。


 勿論、その当時にそんな事を1ミリだって考えてはいなかった。


 入学1年間は地元に帰ることはなかった。何故って遠いから。 2回目の年末に、里帰りしようと思い立った。たぶん、母親から飛行機代の仕送りと催促の電話があったんだと思う。


 年末のバイト。クリスマスも、その後も、ここぞとシフトを詰め込んで働く。ビデオレンタルと一体型の書店バイトは楽しく、CDコーナーのPOPを書かせて貰ったりして生意気盛りに労働にいそしんでいた。


 そうして12月の末も末。実家に帰ろうかって時に、友人のイワタ(男)が包みをもって部屋に来た。


 包みの中身は、「おせち」だった。一人ぼっちの年越しはさぞ寂しかろう。そう思ったイワタの親がわざわざ持たせてくれたのだという。「え、里帰りするんだけどな―」なんて気の利いた事をいうなんてしない。とにかく晩飯にありつけた事に感謝して、だらだら食べて寝た。


 翌々日の朝、僕はむくりと起き上がって空港に向かい、遥か故郷を目指した。学生向けの「スカイメイト」のチケットは当日の空き席限定だから予約ができない。たまたま出たキャンセルに運よく乗れるのを待つ。席が出なきゃ関空から伊丹空港に回ってみたっていいじゃないか。いつだって基本はノープランだ。


 それから、地元の同級生たちと初詣、初日の出、実家に居る時間はごく僅か。楽しくも短い2週間が過ぎ、再び一人暮らしの部屋へと戻ってきた。


 鍵を開けた僕は、異変に気付く。


「…臭い?」


 部屋に入ってみる。荷物は出たまんまの状態。


 こたつの電源を消すのを忘れていた。ぬくぬくと温まった黒く四角いテーブル。


 そしてその上には、むき出しのおせちが置いてあった。


 エビ、昆布、たまご。贅沢に散りばめられた夢の保存食は、温かいこたつの上でじっくりコトコト煮込まれて、得も言われぬドリップ状に形状を変え、部屋じゅうに異臭を放っていたのだった。


 大家さん、お隣さん、ごめんなさい。 この地獄は、僕です。

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