三日月に恋したミカヅキモの話

 今夜の月は満月。

 あれから何回の夜が過ぎただろう。

 

 僕の名前は、ミカヅキモ。

 あの夜に見上げた空に居た彼女が教えてくれた。


「……そう。それがあなたの名前よ。

ちょうど私とおんなじ」


「君も同じ名前なの?」


「そう。私は、三日月」


 僕は道端に捨てられたガラス瓶に溜まった水の中で偶然生まれた。

 親も兄弟もいない。いつか突然ガラス瓶が倒れてしまうか、中の水が干からびてしまったら、僕は死ぬ。


 たまたま今日を生きているだけ。

 それでも、こうして彼女が居た真っ暗な空を見上げている。


 僕は音楽が好きだ。音楽と文学は似ている。どちらも人に何かを伝えようとして生まれたもの。上手いも下手も関係ない。僕はただ、その何かが伝わる瞬間が好きなだけ。


 次に三日月が現れるのはいつだろう。もしかしたら、もう永遠に現れないかもしれない。汚れたガラス越しに見える光の粒が僕の全身を照らす。


「……来ちゃった」


 振り返ると瓶の底に、欠けた月が映りこんでいた。


「え……三日月……!」


 信じがたいが同じ瓶の中に三日月が浮かんでいた。


「あなた勘違いしているわ。

 あの空にあるのは十三夜って言ってね、満月とは違うの」


「十三夜?」


「そう。ちょっとだけ欠けているでしょう? あの欠けた所が私。で、今夜こうして地上に降りて来れたってわけ」


 ミカヅキモは驚いたが、それよりも三日月が目の前にいる事が嬉しかった。


「ね。この前の歌を聞かせて。あなたの声、とっても素敵」


 狭い世界かもしれない。明日はないかもしれない。でも僕らは今、幸せだ。

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