異世界運輸 ─ another dimension express co.ltd

 職業、トラック運転手。

 日本中でよく見かけるロゴマークの入ったトラックで、僕は今日も人を轢く。

 無差別殺人ではない。

 これはれっきとした会社の業務なんだ。


 僕のトラックに轢かれた人間はあらかじめ設定されていたワープシステムを介して別の次元に転送される。


 僕の勤務する会社の本当の名前は、【another dimension express co.ltd】。知っている者の間では【異世界運輸】なんて呼ばれているよ。


 なんでそんな事をするのかって?


 うちは企業だ。需要と供給のアンバランスがあるところには必ずビジネスがある。特にグローバルな市場にはチャンスが転がっている事が多い。


 場所が違えば価値に違いが生じる。それを利用し取引することで莫大な利潤を得ているんだ。僕が毎年、かわいい妻に結婚記念日のプレゼントを贈ってあげられるのはそのお陰。


 この場合の価値の違いについてもう少し話そうか。


 この国には彼女もいなくてブラブラしていて、一見価値を認められていない若者がけっこういるんだ。

 他の国よりもその比率は高いと言われている。政治的な構造、自虐好きの国民性などがそうさせているとの説もある。


 その若者を、別の世界、不思議なことに可愛い女の子が沢山いるのに男性が極端に少なかったり、あるいは体力値がこっちの世界より大幅に低かったりする場所に転送する。

 するとその者は急にモテたりチートになったりするんだ。


 もちろん、そんなにうまく行くケースばかりじゃないので【再生工場】と呼ばれる部署において、わが社の専門のスタッフが手術や訓練を施して、魔法が使えたり若返らせたり、時には別の生き物に改造したりとかもする。

 ピュアな若者を相手にするので、スタッフは【神様】に扮装したりして結構大変なんだけどね。

 お客様のニーズに応えるため、社業も日々進化してるってわけだ。


──話は変わるけど、野球は好きかい?


 アメリカで成功できなかったプロ野球選手が、アジアや他の国々のプロリーグに移籍して大成功することがある。その時、彼らは移籍先の国の英雄として尊敬されるんだ。


 そんな彼らを仲介しているプロの代理店が存在するのを知ってる?

 エージェントって呼ばれる人達だ。


 そう。僕らがやってるのはそれと同じこと。


 異世界に転送された若者たちはとても順応性が高くてあっちの食べ物も躊躇なく食べるし人外の女の子とも仲良くできる。それもわが社の事前のリサーチの賜物さ。


 ちなみに転送先の世界にコボルトやゴーレムやスライムと言った既知の生物がいるって事になってるけど、あれも我が社のサイドビジネス。

 別世界の現実をフィクション小説として出版部門が売り出してるから、みんなそう思っちゃうって具合。

 魔法学校もダンジョンも海賊も、みんな実話を人名だけ変えて本にすれば飛ぶように売れる。

 ね。グローバルな市場って、それだけで儲けの種が転がってるんだよ。

 最近では、僕らを【人身売買】の疑いで訴求する国際人権団体も増えてきてるって噂だけど……。


 さて、今日の仕事だ。

 今日の彼も学校では全く目立たない。ゲーム三昧の男の子。

 小学校の作文やSNSなどを調査した結果によると、「魔法」を信じてて、「モフモフ」を愛し、「ゴスロリ少女」と恋愛がしたい。あ、「ラッキースケベ」も希望だった。


 ふむふむ。転送先とのマッチングも良好みたい。

 僕は後ろからアクセルを踏むだけ。じゃあ、行ってくるね。


【キキイィィッ……ドンッ!】


── ね。 簡単なお仕事でしょ。


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