3秒ルールことはじめ

「また~? お前ほんとそれ好きだよな!」


「だってウマいじゃん? コンビニの【トリカラくん】」


 部活帰りらしき高校生が店先の駐車場で楽しそうにおしゃべりしている。


【故事成語】


 昔のちょっとした出来事がきっかけで出来た言葉。


 でも、読者の皆さんは過去にあったこんな出来事をきっと知らないだろう。


───それは今から○千年前。

 アマフミという名のその男は雪の吹き荒れる山の峰を一人歩いていた。妹のソウロンがいる故郷まであと少しだというのに、凍てつく寒さがアマフミを襲う。


 手持ちの食料はとっくに底をつき、たった一つの玉子を懐に大事に抱えていた。


「ソウロン、あと少しの辛抱だ。この【蓬莱鳥の玉子】を食べさえすればお前の病はきっと直る!」


 妹は半年前から大病を患い余命わずかと言われていた。

 高名な医者に見せても打つ手はなし、そんな時に村の占い師のオババからある話を聞いた。


「もうすぐ70年に一度の大満月が来る。その夜に蓬莱鳥が生んだ玉子には、万病を癒す力があるというぞよ」


 それを聞いたアマフミは即座に村を飛び出した。願いはただひとつ、妹を助けること。

 それから津々浦々を旅をして回り、全財産を投げうって必死の思いで【蓬莱鳥の玉子】を手に入れたのだった。


 あと少しだ。妹はこんな乱暴者の兄を幼い頃から世話してきた。

 優しい妹の元気な姿が見たい。だが思いとは裏腹にアマフミの顔の回りは凍りつき、霜焼けと体力の消耗から意識は朦朧とし始めていた。


 その時ひときわ強い突風が吹き、足をとられたアマフミの手から玉子がこぼれ落ちた。


「ああっっ!!」


【グシャッ!】


 たったひとつの希望が……固い氷の張った岩の上で落ちて潰れた。







────「もう。アマフミ兄さんはほんっとに無茶なんだから」


「……え? お前、ソウロン? 」


 気づけば風は止み、真っ暗な空間にアマフミとソウロンは浮かんでいた。


「お前、なんでこんなとこに? 寝てるはずじゃ……」


「ふふふっ。 ほんと、兄さんは私がいなきゃダメね」


 ソウロンはにっこり笑った。


「あの日、私の方を振り返りもしないで走って出ていっちゃうんだもんなあ。子供の頃と全然かわってないよ」


「ソウロン?」


「アマフミ兄さん、今から一回だけ最初で最後の術を使うからね。

 今は時間が止まったままだけど、私が合図したら時間が3つ数える分だけ逆戻りするの」


「何? おい、ソウロン待てよ」


「アマフミ兄さん、たまには料理もやんなきゃ。 それ、【蓬莱鳥の玉子】なんかじゃないよ。ただの鶏の玉子。それくらいフツー見分けつくでしょ?」


「ええっ? 海洋商人から大金で買ったのに!」


「時が戻ったらそれはアマフミ兄さんが食べるの。栄養つけて元気だして。私みたいに死んじゃダメだよ」


「なんだって? お前……」


「それっ!!!」


 ・ ・ ・ 


【ビュウウゥゥゥ……】


そこは、もといた雪山。


「さよなら兄さん。幸せに生きて」


 どこからともなく聞こえたその言葉に、アマフミは妹がもうこの世にいないことを悟った。

 手には傷ひとつない玉子が握られていた。


────


 ベンチで男子の手からカラアゲが滑り落ちた。


「わっ!」


「えっ?」


「セーーーフ!! あっぶなぁ」


「何がセーフだよ?

地面に落ちてんじゃん!」


「大丈夫だよ。3秒たってないから」


「なぁ、その3秒ルールって誰が決めたんだ?」


「……よくわかんないけど、大昔からそう決まってんだよ! 3つ数える前ならセーフってね」


 今夜の満月はいつにも増して大きい70年に一度のスーパームーン。

 夜空の輝きは……、今も昔も変わらない。

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