第212話 それってヒールじゃないのよねぇ
「『
サブリナはミーシャの症状を肩代わりできないことが分かるとその場にへたり込む。
ベッドの上のミーシャには、引き続きティアがヒールを掛け、ハルナが魔法真剣を何度も突き刺している。
「……ちょっと……変な感じがします……。手応えがないというか、治癒が効いている感じがしません。アウロラさんの怪我と同じような……」
ハルナの頬を汗が伝う。
「えぇ、きっとそれは呪いよぉ。しかも、かなり強力な、ね。……呪いの場合、治癒魔法はほとんど効果がないはずよぉ」
「で、でも! アウロラさんの呪いの傷には少しだけ効果がありましたっ! なので時間を掛ければ……」
ハルナの目を見てから、ミュルサリーナは目を瞑り、頭を左右に振る。
「残念だけど、……この娘は確実に死へと向かっているわ。呪いにも強さがあってね。これは私にも解呪できないレベルのものなのよ。だからね、ハルナちゃん……」
突然真面目な調子で話し始めたミュルサリーナは、魔法真剣を握っているハルナの手を取る。
「あなたも病み上がりなのでしょう? これ以上続けると、この娘だけじゃなく、あなたも死ぬ事になるわ」
「で、でもっ! 目の、目の前で、誰かが死んでいくのを見たくないんです! 私は、……ヒーラーだから!」
ハルナは大粒の涙をこぼしながらミュルサリーナの手を振り払い、再び魔法真剣をミーシャの身体に突き刺す。
「……ぁ……っ……」
「ハルナちゃん!」
「ハルナ!」
突然、ハルナがよろめき、そのまま意識を失って倒れる。
ミュルサリーナが咄嗟にハルナの身体を支え、慌てて駆け寄ったグレインと共に彼女を空きベッドへと運ぶ。
「グレイン、ちょっといいかしら」
ハルナを寝かせたミュルサリーナが、切羽詰まった様子で声を掛ける。
「あの娘に集中して、全力で強化して欲しいの。ミーシャちゃんを治せる可能性があるのは、あの娘しかいないわ」
グレインの耳元で、ミュルサリーナはそう呟く。
彼女の視線は、ミーシャの身体に寄り添い、未だに治癒魔法を掛け続けているティアを捉えていた。
「あぁ、他の二人が何も出来なくなったんだから、そりゃそうなんだが……。ティアのヒールは普通のヒールだぞ? 呪いに効く訳が──」
「いいから! 早く!! もう一刻を争うの!!」
首を傾げるグレインをミュルサリーナが怒鳴り付ける。
「あ、あぁ、分かった!」
そう言ってグレインはティアに駆け寄り、両手を彼女の背中に添えると、グレインとティアの全身が淡く青色に輝き出す。
「周りの人も、本人すらも気付いてないようだけど……。あの娘のヒール……全然普通じゃないわよ」
ミュルサリーナは自分の右腕──かつてセシルとのいざこざで怪我を負い、ティアに治療してもらった部分を指で撫でながらそう呟く。
「お願い、治って……治って……治って……」
懸命にミーシャの治療を続けるティアは、うわ言のようにそう繰り返している。
「も、もう……ごぼっ! ゴホッ……いいの、お、王女、さまぁ……。わた、し、あなたを、殺そうと……したから……これ……天罰……」
「ミーシャ! おい!」
顔面蒼白のエリオがミーシャに声を掛けるが、すでに反応はない。
ティアはまだ諦めずにヒールを掛け続けている。
「あぁもぅ、世話が焼けるわねぇ」
そう言って、ティアの横にミュルサリーナが立つ。
「あなたは、自分がどういう魔法を使っているかを理解していないのよぉ。だからいつまでも上達しないし、治癒速度も遅いのぉ。……まず、あなたが使っている魔法、それってヒールじゃないのよねぇ」
「「えぇ!?」」
ミュルサリーナの言葉にはティアだけでなくグレインも同様に驚愕する。
「で、でも時間はかかりますけどこの魔法で怪我は治りますよ!? これがヒールじゃないとしたら一体何だと言うのですか?」
ミュルサリーナは笑みを浮かべて答える。
「おそらく……時空魔法よ」
「時空……魔法……?」
「えぇ、あなたは傷口を癒しているつもりだったのかも知れないけど、実態は傷口付近の時間を巻き戻して、怪我がない状態まで復元しているんじゃないかと思うのよぉ」
しかし、ティアは訝しむような目でミュルサリーナを見る。
「……どうしてミュルサリーナさんはそんなことが分かるのですか?」
「私、魔女なのよねぇ。つまり魔法のプロ! ……それに、以前あなたの治療を受けた場所だけお肌の調子がいいのよぉ。きっと部分的に若返ったんじゃないかしらぁ」
グレインとティアからジト目を向けられて、ミュルサリーナは慌てて顔の前で両手をふるふると揺らす。
「……あ、今のは冗談よぉ。実際にティアちゃんの治療を受けてみて分かったのだけど、身体に入ってくる魔力の波長が、修行中に師匠から掛けられた時空魔法の魔力と似ていたのよぉ。まぁ、師匠の魔法は私の時間経過だけを速くするものだったけどねぇ。初歩の修行に三年も掛けてられないから三秒で終わらせろ……ってねぇ」
「事の真偽はともかく、ミーシャを助けるには……」
「ミュルサリーナさんを信じるしかありませんね」
グレインとティアはそう言って頷く。
「早く! 急がないとこの娘死んじゃうわよぉ」
「「あわわ……急ごう!」」
「あ、やりすぎると身体年齢まで若返りすぎて存在すら消えちゃうかも知れないから、ゆっくり慎重にねぇ」
「「えっ…急いでゆっくり慎重に」」
「ほらほら早く! 脈が止まるわよぉ」
「「急いでゆっくり慎重に、でもやっぱり急いで……」」
「あぁもう! 全力で強化するからあとは任せた!」
グレインはそう言って、再びティアを強化する。
「責任逃れじゃないですか!」
ティアは頬を膨らませながらも、おそるおそるミーシャの身体に手を添える。
「時間を、戻す……ヒール!」
そしてティアは『
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