第161話 早く、港へ!
バナンザギルドで筋骨隆々のギルド職員達に囲まれた一行は、彼らの捜索協力の申し出を丁重に断りながら、逃げ出すようにギルドを後にした。
「冒険者ギルドは味方の筈だったんだが……思いがけず酷い目にあったな……。……トーラス、大丈夫か? お前、顔が真っ青だぞ」
「あぁ……大丈夫さ……。どこか道端の美少女で補給できれば……」
「何を補給するんだよ……くれぐれも変な真似はするなよ?」
グレインの言葉に、力なく手を振り応えるトーラス。
「ねぇグレイン、これからどうするのよ? このまま当てもなく歩き回ってても見つからないわよ。それに……サブリナも子供じゃないんだから、今夜は宿に戻ってくる可能性だってあるじゃない」
「うーん、そうだな……。あと怪しいのは、それこそ『魔界』に怯える漁師達ぐらいだしなぁ」
「では、港へ行って漁師さんに聞き込みをしましょうっ!」
「わたくし、船に乗ったことがないので、機会があれば是非乗ってみたいですわ」
「……二人とも、楽しそうだな。サブリナが心配じゃないのか?」
確かに、深刻な表情のナタリアとグレインに対して、ハルナとセシルは観光への期待感が表情から滲み出ていた。
「「いえ、心配ですよ!」」
二人は慌てて両手を振って否定する。
「……でも、サブリナさん、ああ見えて強いですから」
「そうですわ。並の人間では太刀打ちできないほどかと」
「……でも……毒酒なら……ふふっ」
そう呟いて妖しく笑うリリー。
「リリー、毒はやめなさいって」
危険な発言をするリリーをすかさず諫めるナタリアであったが、リリーの表情は更に笑みを増す。
「……みんなが朝食で飲んでたお水にも……ふふっ……」
「「「「えっ」」」」
「ちょ、ちょっと、いったい何を入れたのよ!」
「なんかみんな、心なしか顔色が悪くなってきたような……」
「あたしも寒気が……」
たちまちパニックに陥る一同を見て、リリーは、ぺこりと頭を下げる。
「……ごめんなさい。嘘。……何も入れてない」
「「「「えっ」」」」
「……でも……みんな具合が悪くなったでしょ。『
「なるほど、深い……」
「グレイン、なに感心してるのよ! ただのハッタリじゃないの! いい? リリー、世の中にはね、言っていい冗談と悪い冗談があるのよ!」
「……これは暗殺じゅ──」
「リリー! ……とにかく……嘘は駄目よ」
「……はい……」
ナタリアのあまりの迫力に、目に涙をためて謝るリリー。
そんなリリーの頭を撫でるグレイン。
「まったく……。ナタリアも少し大人気ないんじゃないか?」
「冒険者は信用が命よ。嘘をつく冒険者なんて誰が信用してくれると思う?」
「まぁ、それも時と場合によってだな……」
そんな時、遠くから一人の女性が駆け寄ってくる。
「みなさーん! おはようございまーす!」
駆け寄ってくる女性はティアであった。
「ティアか。おはよう」
「聞きましたか? 今朝、港に巨大な幽霊船が漂着したそうですよ! それで、これから見に行くところなのですが、今私の護衛はビルしかいなくって……。是非皆さんにも私の護衛をお願いできないかと」
グレインがティアの後ろを見ると、遥か遠くからビルと思われる甲冑がこちらに走っているのが確認できた。
「近衛隊の他の奴らはどうしたんだ?」
「他の者たちは、一緒に訓練しているローム騎士団とともに、一足先に幽霊船の調査に向かっています。なので私達も急がないと!」
ティアはそう言ってグレインの手を取り、駆け出そうとする。
「急ぐ必要あるのか? 騎士団が調査してくれるんだから、調査が終わって安全が確認されてからの方が良いだろ」
「それじゃあつまらないじゃないですか! 得体の知れない、危険かも知れないものだから見たいのです! さぁ早く、港へ!」
グレインの腕をぐいぐいと引っ張るティア。
しかしティアほどの力ではグレインは動かない。
「ま、待ってくれって。実は俺達、サブリナを探しててな。ゆうべ飲みに行ったあと消息不明なんだよ」
その話を聞いてきょとんとするティア。
「それでしたら……皆さんの着けている腕輪で現在の居場所が分かるんじゃないでしょうか」
「「「「あっ!!」」」」
そう言ったは良いが、何かを思い出して急にむくれるティア。
「どうかしたのか?」
「ハイランド様が……おそらく腕輪の力を使い、私の行く先々で先回りして、偶然を装って遭遇しようとするんです」
「「「「それは面倒臭い」」」」
ティアの位置を調べてから先回りするハイランドを想像し、溜息をつく一同であった。
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