第157話 嫌だと言ったら?
「バナンザは王都と違った雰囲気で、活気があるよなぁ」
グレイン達はバナンザの大通りを歩いていた。
ただし、ミゴールはレンを伴って目的の宿へまっしぐらに向かい、ティアはハイランドと話があるという事で近衛隊を引き連れてバナンザの街からも見える、丘の上に聳えるハイランドの居城へと向かった。
「あの……グレインさま」
ハルナがグレインに声を掛ける。
「ん? 何だ?」
「私とセシルちゃんは、今後の冒険に必要な道具や装備を見てきますねっ!」
「あぁ、分かった。まぁ宿は同じなんだから、問題無いだろ。バナンザの中では自由行動ってことで」
そう言って、一行から離れるハルナとセシルに手を振るグレイン。
「……グレインさん……。私も……兄様と一緒に……」
「あぁ、構わないぞ。トーラスと逸れないように気をつけてな」
リリーは小さく頷き、トーラスの手を引いてグレイン達から離れていく。
こうしてグレインとナタリア、サブリナだけが大通りを歩く事になった。
「ねぇ……。これってもしかして」
「あぁ、きっとそうじゃな」
頷き合うナタリアとサブリナ。
「ん? 何がだ?」
「「はぁ……」」
溜め息をつくナタリアとサブリナ。
「ハルナもリリーもみな、妾達に気を遣ってくれたのじゃ。ダーリンと水入らずで一緒に過ごせるようにのう」
「あぁ、なるほどなぁ」
「あんた達は依頼であちこち飛び回ってたし、あたしはギルドの仕事があったしで、なかなかこうしてゆっくり観光とか楽しめなかったから、たまには良いわよね」
「別に観光に来てる訳じゃないんだよな……」
グレインがそう呟くと、ナタリアは今にも泣きそうな顔でグレインに訊く。
「ねぇ……ティアが周辺国を回って『ヘルディム包囲網』を構築するまでの護衛って依頼、ここで破棄できないかしら?」
「……どういう事だ?」
「たぶん……ここから先は、『
「心配するなって。俺達は……俺はいつでもお前の所に帰ってくるから。帰る場所がサランじゃなくてバナンザに変わっただけじゃないか」
「でも! ……次の国に旅立ったら、今度戻ってくるのはいつ? 包囲網ができたらそれで終わり? ヘルディムを取り戻すまで延長されたりしない? そんな事言ってたら、戻ってくるまでに何年かかるか分からないじゃない!」
「それは……」
口籠るグレイン。
「二人とも、落ち着くのじゃ……まず、無事に旅立てるかの?」
サブリナが微笑を浮かべて言う。
見れば、グレイン達の周りを五人の屈強な男たちが取り囲んでいた。
「サラン冒険者ギルド、元暫定マスターのナタリアだな。……ギルドでお前の行方を探していた。同行してもらおうか」
一人だけスキンヘッドの男が、ナタリアに向かってそう告げた。
「い……嫌だと言ったら?」
ナタリアは握り拳に力を込めながら、勇気を振り絞ってスキンヘッドの男にそう答える。
同時に、グレインはショートソードの柄に手を掛ける。
「そうか……見つけたけど来てくれなかったって言ったら、うちのギルマスがガッカリするだろうな」
「「「ん?」」」
「……どういう事よ!? 普通は『貴様らに拒否権なんて無い! 逆らうなら力尽くで連れて行くまでよ!』って叫ぶところでしょうが! ほら、言ってごらんなさいよ」
あてが外れたナタリアは、そのままの勢いでスキンヘッドの男を怒鳴り付ける。
「えっ……は、はい! き、貴様らに拒否権なんて無い! 逆らうなら……えーと、逆らうなら、力尽くで連れて行くまでよ!」
「よし、それでいいわ。……きゃああああ! 力尽くで、ですって……? グレイン、サブリナ、戦うわよ!」
「いや、こんな天下の往来でそれはまずい! 頼む、待ってくれ! こんな所で戦闘になったら街にも民間人にも被害が出ちまう!」
スキンヘッドの男が慌ててナタリアに頭を下げる。
「……あたし達、ギルドで指名手配されてるんでしょ? だったら大人しく捕まってやる筋合いは無いじゃないのよ」
「そうだな……俺達はもう犯罪者なんだよな。こうなったら行くとこまで行くしかないか。戦うか逃げるか……素直に捕まってたまるか」
ナタリアの言葉にグレイン達も同意する。
「ちょっと待ってくれって!! 指名手配という訳じゃなかったぞ……。確かにサランギルドから各国の冒険者ギルドに連絡は来たが、手厚い保護の依頼と、見つけたら無事を教えてくれって話だったぞ。ご丁寧にあんた達一行の顔も映像つきで送られてきてな。……何度も見せられたから覚えちまったよ。でもまさかこの国に来てると思わなくてびっくりしたぜ」
「指名手配……じゃないの? ……でも、なんでそんな通信内容をあんたが知ってるのよ」
「紹介が遅れたが、俺はバナンザ冒険者ギルドのサブマスター、タタールだ。周りの奴らは秘書官だ。以後お見知り置きを……」
そう言って、タタールは再び頭を下げる。
「指名手配じゃないって言って、ついて行ったら拘束されるなんて事はないわよね?」
「あぁ、心配ない。バナンザ冒険者ギルドが総力を挙げて、あんた達の身の安全を保証しよう」
「じゃあ……ちょっと行ってみましょうか」
ナタリアは、頷くグレイン達を見回してから歩き始めるのであった。
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