第130話 最後の修行をしようか
「じいや! レンさん! 大丈夫!?」
サラン近郊での騒動の後、グレイン達はミゴールとレンをサランギルド裏の小屋に連行した。
そこには既にアウロラとミレーヌが収監されていた。
ミゴールがトーラスによって身体の自由と視界を奪われた後、レンはハルナの説得によって、自ら罪を償う決心をしたのである。
『お父さん! 自分の犯した罪を……償って! ……っ……ううっ……。私だって……お父さんが死刑になるのは嫌だけど……それでも! 闇ギルドがこれまでに様々な人を傷付け、殺めてきたのは事実だから! 自分の犯した罪は……自分で責任を取ってくださいっ。私、カッコ悪いお父さんなんて見たくないからっ!』
ハルナはそう言って、レンの前でわんわん泣き出したのだ。
さすがのレンもこれには参ったようで、死を受け入れる覚悟を決めざるを得なかったようだった。
そんなハルナは、ギルドの裏小屋に連行する間も、ずっとレンにしがみついたまま泣き続けており、レンが収監された後にはグレインとナタリアに慰められている。
「……みんながみんな悲しい思いをしてるわね……。誰一人として喜べない、後味の悪い結末だわ。……でも、闇ギルドの存在は……許してはいけないものよ」
収監された幼馴染を見ながら、ナタリアはそう言って、泣きじゃくるハルナを抱きしめている。
「王宮騎士団が来るのは明日の予定だったか? それまでは俺達やサランの冒険者が見張りについてるから、ナタリアとハルナはもう帰って、少し休んで来たらどうだ?」
ナタリアはグレインを見て、無言で頷く。
「ハルナ、一緒に帰りましょ?」
「……ゃだ……嫌だ! ここから離れたくない! 最後の最後までお父さんと一緒にいたい!」
ハルナの泣き声で周りの冒険者たちもしんみりする。
「よし! ハルナ、最後の修行をしようか。 お前達も一緒にどうだ!?」
レンに『お前達』と呼びかけられているのは、ハルナがレンを説得していた時、周囲に倒れていた冒険者達である。
レンは最初から殺すつもりが無かったのか、多少の怪我はあるものの、致命傷を負っている者は一人もおらず、レンを連行する時に一緒にサランの街へ戻って来ていた。
「お、お願いします! 鍛えてください」
「俺、あんなに心の底から『勝てない』と思ったことなんかなかったです! 俺に剣を教えてください!」
「俺も、死刑になる前に一つでも学び取って強くなってみせる!」
冒険者達は次々と檻の中のレンに頭を下げる、奇妙な光景が繰り広げられる。
「しょうがないわね……訓練場までよ? あと、逃走しないよう監視は付けるから、それは我慢して。……で、いいでしょうか、『女王陛下』」
ナタリアは恭しくティアに尋ねる。
「構いませんよ。ここギルドの中は治外法権ですからね。私がどうこう言える立場にはありませんし」
「あ、ありがとうございます……。じゃあ良いわよ」
そう言って、ナタリアは檻の鍵を開け、レンが外に出てくる。
「ふえぇぇぇぇん……」
それを見て、再び泣き出すハルナ。
「ハルナ、しっかりせい! 俺がいなくなったら、お前が治癒剣術を引き継いでいくんだ!」
「……は、はい……ぐすっ……」
涙を拭いながら、ハルナはレンや冒険者達とともに小屋の外へと出ていく。
「見ていて痛々しいわね……。どうにかしてあげたいけど……クーデターを起こした闇ギルドの幹部なんて、大罪人だからね……」
ナタリアが溜息をつくと、グレインが彼女の頭を撫でる。
「人のことは言えないだろう? お前も、親友が大罪人だったんだし」
『まぁ、そうね』と呟くナタリアの顔は、幾分悲しげではあったが、どこか吹っ切れた表情にも見えた。
「それにしても驚いたわよ。最初はまた女増やしてきて! って思ったら国王陛下だったなんて」
ナタリアはグレインを小突きながらティアを見て言う。
「近衛隊の男もいっぱい増えただろ? あいつらの中だったら誰が好みなんだよ」
グレイン悪戯な笑みを浮かべてナタリアに返す。
「そんなの無いわよ! みんな鎧兜被ってて、誰が誰だか分からないでしょうが!」
「近衛隊員同士は見分け付いてるみたいだったけどな」
「……お二人はご結婚されて、もう長いんですか?」
二人の話を聞いていたティアが、唐突に素朴な疑問を投げかける。
「「まっ、まだけっけけけけ結婚なんてしてないです!」」
顔を真っ赤にして否定するグレインとナタリアであった。
「あら、そうなのですか? でも、あの魔族の方……サブリナさんでしたっけ? あの方が頻りに『第一夫人』と仰っていたので、てっきりご結婚されているものかと」
「あー……そういえば、そろそろ治療院にサブリナを迎えに行かないと」
「その必要はないぞえ」
グレインが見ると小屋の戸口にサブリナが立っていた。
「サブリナ! ……少しは休めたか?」
サブリナは笑顔で答える。
「大丈夫じゃ。……無事に、捕らえられたようじゃの。ナタリア殿の様子が心配でギルドに来たのじゃが、もう全て終わっておったとはのう。さすがはダーリンじゃ!」
しかし彼女の表情は、無言で立ち尽くすトーラスに気付くとすぐに曇ってしまう。
トーラスは何も言わず、ただ静かに檻の中で寝藁に座るアウロラを見据えていた。
彼の左右に寄り添う二人の少女、リリーとセシルは不安そうに彼の表情を見つめていたのであった。
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