第122話 あんたとは絶交よ
全身に切り傷を負い、血を流してよろめくサブリナのもとへ、グレインとナタリアが駆け寄る。
「サブリナ! あんた……また無茶したわね!」
サブリナはグレイン達に支えられながら、ゆっくりと横たわる。
「お主と……ダーリンが幸せに過ごすのが一番じゃからな。第二夫人よりも第一夫人の方が……大事じゃろ……うっ……ハァ……」
「ナタリア、お前ヒールとか使えないのか?」
「そんなの無理よ! そう言うあんた……も使えないんだったわね。……とりあえず、傷の数は多いけど、どれもそこまで深くはなさそう。出血量だけ注意ね」
サブリナの手当をしようとするグレイン達を見ながら、アウロラは冷たい一言を放つ。
「無駄だよねー……。誰が最初に死ぬか、最後に死ぬか。それだけ……でしょ?」
このときナタリアは、背筋に悪寒が走るのを感じた。
目の前にいる女は、もはや幼馴染の親友でも、職場の上司でもなく、闇ギルドの総裁なのだという事を実感したのであった。
しかしそれでもナタリアは、アウロラを睨み返して言う。
「アーちゃん……覚えてる? あたしがジョブを授かったときの事……」
「んー? この期に及んで、昔話をして命乞いかな?」
「覚えてるかって言ってんのよ!!」
突如激昂するナタリアに、アウロラは一瞬怯む。
「そんなの……覚えてるに決まってるよー。二人で一緒に行ったじゃない。……ナーちゃん、恥ずかしがってジョブを教えてくれなかったっけ」
「あの時のアーちゃんは……どこ行っちゃったの? あの笑顔も、何もかも、全部嘘だったの? それなら、そもそも何であたしに近付いたの? あたし……あんたが何考えてんのか全然分かんないのよ!」
ナタリアはまくし立てながら涙を流す。
「……嘘じゃないよ……。ナーちゃんと一緒に過ごした幼少の頃から、冒険者ギルドの幹部になってからの忙しい日々まで……どのウチだって嘘じゃないよ。……けど……ウチはあの男を……宰相アドニアスをどうしても許せない! この国を潰して、あの男を地獄に叩き落とせるなら……ウチは何だって擲ってみせる! それがたとえ自分や親友の命であったとしても……!」
アウロラはそう言うと、右手に炎を纏う。
「はぁ……。もう、友人関係の修復は無理ね……。アーちゃん、……あんたとは絶交よ!」
ナタリアはそう言うと涙を拭い、サブリナに寄り添う。
「往生際が悪いよ!」
アウロラがそう言うと、炎を纏った右手を、背後から忍び寄っていたセイモアに叩き付ける。
「うぐっ……」
セイモアはくぐもった短い呻き声を上げながら吹き飛ばされる。
「セイモアさん!」
グレインが叫ぶが、アウロラはそれを嘲る。
「グレインは他人の心配してる暇あるのかなー? アハハハッ」
アウロラは、すでに目の前の者達が死に体であるためか、自分が高笑いしていたからなのか、サブリナがナタリアに囁く声に、魔力が集っている事に気づけなかった。
次の瞬間、何故か全身が血まみれになっているナタリアがアウロラに飛び掛かる。
「グレイン、あたしを強化して!」
アウロラの腕を掴むナタリア。
反射的にアウロラを強化するグレイン。
「『
「あぁぁぁぁっ!! な、なんでぇ!?」
ナタリアの体中についた傷はたちまち消えていき、代わりにアウロラの身体に傷が増えていく。
「あの傷は……サブリナの……?」
グレインがサブリナを見ると、満身創痍であった筈の彼女の傷は全て消え去っており、元気に立ち上がるところであった。
「今のナタリア殿はヒーラーになっておる。妾のジョブと、治癒術を一時的に借り受ける『契約』を交わしたのじゃ」
グレインは『契約』という言葉に、咄嗟に嫌な予感がして、不安な表情でサブリナに問い掛ける。
「その代償は……まさかナタリアの命じゃ……」
「妾が全回復するだけの魔力と体力の供給、それと一時的にナタリア殿のジョブを交換する形で借り受けただけじゃ。……とはいえ、魔族である妾が長年に渡って失っていた魔力を全回復させるとなると、普通の人間では命がもたぬ筈じゃがの」
「やっぱりナタリアの命が代償なんじゃじゃないか!」
サブリナはニヤリと笑って言う。
「話はまだ終わっておらぬぞ? 体力の供給は即時、魔力の供給は『十秒後』と条件をつけておる。つまり……『今』からじゃ!」
「あ……回復が……追いつかなっ……」
自らの身体に発生した傷を治癒魔法で癒やそうとするアウロラであったが、思うように治癒魔法を発動できずに戸惑う。
「さては……ナーちゃん……が……何か……」
アウロラが気づいた時にはもう手遅れであり、ナタリアを経由してサブリナに魔力を吸い尽くされたアウロラは、虚ろな目で力無く倒れ込む。
アウロラが倒れたのを見届けたサブリナは、ナタリアに声をかける。
「まだじゃ、そのままじゃぞ!」
そしてサブリナはセイモアに駆け寄る。
「セイモア殿、今治療するからの。『再変換治癒』!」
しかし、セイモアの傷が癒えることはない。
「……あぁーっ! ナタリア殿に全部貸したのじゃった……」
「「えぇ……」」
呆れるグレインとナタリアであった。
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