第116話 埋葬しましょう

「ビル……あなたは私を庇い、勇敢にモンスターに立ち向かい……そして不幸にも新たな味方の刃に斃れはしたものの、私はあなたの勇姿を忘れることはありません。このような事故で命を落とす事になろうとは……。せめて安らかに眠ってください」


 ティアはリリーが殺した騎士の遺体の前で跪き、祈りを捧げている。

 祈り終えると、ティアはリリーの元へと向かう。


「リリーさん、あなたが彼を殺したのは事実です。……ですが、今回の件は不幸な事故だと私は考えています。そのため、あなたを罪に問うことは考えておりませんので、ご安心ください」


「……はい、分かりました……」


 リリーは小さく頷く。


「それでは、埋葬しましょうか」


 リリーに向き合っていたティアはくるりと向きを変え、他の近衛兵を集める。


「……この方は……連れて行かれないのですか……?」


 そんなティアの背中にリリーが問い掛ける。


「……道中、彼を連れていくことは困難です。かと言ってこのまま放置しておけば、やがてモンスターの餌になってしまいます。それならば、ここで埋葬していきます。ここなら王都も一望できますし……。直ちに埋葬の準備に取り掛かりましょう」


「……埋葬したら……蘇生できなくなりますよ……?」


 ティアをはじめ、近衛兵達もリリーが何を言っているのか分からず首を傾げる。


「お嬢ちゃん、こいつはお嬢ちゃんの華麗な一撃で死んだんだ。お嬢ちゃんがどこの宗教かは知らないが、人間は一度死んだら、祈っても生き返ることなんてないんだよ」


 近衛兵の一人がリリーの前にしゃがみ込み、優しく諭す。

 その様子を見ていたグレインが慌ててティアに近付く。


「リリー、ちょっと待ってくれ。……なぁあんた達、口は固いか? リリーはこの歳で、闇ギルドから常に命を狙われ続けている存在だ。つまりここから先は、リリーの秘密、リリーの命に関わる話になってくるんだ。……リリー、場合によってはこのビルとかいう男はこのまま埋葬するからな」


 口を噤み、こくりと頷くリリー。


「ふふふ……。我ら、ティグリス姫の近衛騎士は、近衛騎士の中でも選り優りの十名が任命されておる! 口を噤めと言われれば死ぬまで口を開かぬは至極当然の事である!」


 リリーを諭していた近衛騎士が立ち上がり、胸に手を当ててグレインに向かって宣言する。


「グレイン、この者たちの人間性は私も保証します。もし何か情報が漏れようものなら、ヘルディム王国が国を挙げて……リリーさんをお守り……したいなぁ……なんて……思ったり……」


「『国を挙げて』なんてできないよな……。その国を外からぶっ潰そうとしてるんだから……。まぁ、でも分かった。最悪、ティアが命がけでリリーを守ってくれよ?」


 そう言うと、グレインはリリーを強化する。


「リリー、頼む」


 リリーは笑顔で頷く。


「『蘇生治癒リバイブ・ヒール』」



********************


「良かった! 良かったなぁ、ビル!」

「一緒に朝まで飲んでくれる相手がいなくなって、どうしたもんかと思ったぞ!」

「おいおい、俺を何だと思ってやがる……。飲み要員じゃねぇんだぞ!?」


 そんな事を言いながら、蘇生したビルを含めて、ティアの近衛騎士達は涙を流して喜び合っている。

 グレインとティアはその様子を遠目に眺めながら、話をしている。

 グレインの傍らにはリリーが座り込んで休んでいる。


「自らが殺した者だけは蘇生して完全治癒できる……ですか……。使い方によっては恐ろしい能力ですね」


「あぁ。闇魔術の奥義らしくてな。それを闇ギルドが手に入れたくて、リリーを狙っているんだ」


 ティアが何かを思い出したように呟く。


「……あの洞窟の中で、女風呂を覗いていたトーラスさんにナイフを突きつけていたのは……」


「ふふっ、想像におまかせする。ただ、あんまりリリーを怒らせると殺されるから注意してくれ。な?」


 グレインは、傍らのリリーの頭を撫でる。

 リリーは嫌がる素振りもなく、ただなすがままになっている。


「……それと、トーラスの名誉のために言っておくが、あれはちゃんと外の様子を見てたと思うぞ? ……ただまぁ、喜んでいたのは『応用した時のこと』を考えてだと思うが」


「あはははっ、それは殺されても仕方ないですね」


 けらけらと明るく笑うティアであった。


「そろそろ、行くか」


 ティアが一頻り笑い終えたタイミングを見計らって、グレインが全員に声を掛ける。


「「「はいっ!」」」


「あんた達も、姫の護衛頼んだぞ?」


「「「「「お任せあれ!」」」」」


「それじゃあ、このヘルディム王国にさよならだ!」


「「「「「「おー!!」」」」」」


 全員が声を上げて同時に出発する。

 しかし、ティア一行と『災難治癒師カラミティ・ヒーラーズ』、トーラス達がそれぞれ別の方向に歩き出す。

 気付いて驚き立ち止まる三人。


「「「そういえば行き先決めてなかった」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る