第114話 外に出ましょう
トーラスの言葉で、洞窟内の空気は一気に張り詰める。
「とりあえず、洞窟の中は狭いし戦いづらそうだな……。よし、みんなで外に出る──」
そう言ったグレインを制したのは、ラミアである。
「ねぇ、私にいい考えがあるの。任せてくれない?」
「うーん……、お前のいい考えって……。……分かった。ラミアに任せてみようか」
グレインは少し迷ったものの、ラミアに任せる事にする。
と言うのも、『緑風の漣』時代から、ラミアの『いい考え』はあてにならないものばかりであったためだ。
「要するに、外にいる何者かと戦闘にならなければ良いのよね」
そう言ってラミアは、呪文を詠唱する。
「最大威力よ! 『フレア・マイン』!!」
ラミアの詠唱が終わると、洞窟の入り口付近の壁と天井に魔法陣が浮き上がり……轟音を立てて爆発する。
「ゲホゲホッ、砂埃が……」
爆風で一気に舞い上がる砂埃によって、洞窟内の視界は極めて悪くなる。
「おいラミア! どこがいい考えなんだよ!? 何も見えないぞ!」
しかし洞窟の視界が悪くなったのは、砂埃のせいだけではなかった。
ラミアの魔法によって生じた大量の土砂によって入り口が塞がってしまっているため、外の光が全く差し込んでこなくなったのである。
「ゲホッ……なぁトーラス、これって……」
「あぁ、生き埋めってやつだよね」
「ラーミーアー……」
洞窟の中は一切の視界がない完全な闇であるが、ラミアがいそうな方向にジト目を向けるグレイン。
「どうかな? 我ながらナイスアイディアだと思ったんだけど」
「どこがナイスだ! 俺達はどうやって外に出ればいいんだよ? このままここにいたら、息ができなくなって死ぬぞ!? 入り口を吹き飛ばしてくれ!」
「えっ? どこを吹き飛ばせばいいのか、目の前が真っ暗で見えないし……。それに、魔力を使い果たしてしまったの。外に出るには……あー……その……そこまでは考えていなかった……です……。すっ、すみません……私はやっぱりただのウジ虫ですこの世から消えてなくなりたい死んだ方がいい役立たずですいっそこのままこの洞窟の中で」
突然ぶつぶつと自らへの呪いの言葉を呟き始めるラミアであった。
「まずいぞ、この人数でこんな密室にいるからか、だんだん息苦しくなってきた」
そう言うグレインを筆頭に、他の者も呼吸が荒くなり、肩で息をし始める。
「私は……旅立つことさえもできずにここで死を迎えるのですね……。近衛兵の皆様、お父さま、折角皆さまが命を賭して生かしてくださったのに、なんのお役にも立てず……申し訳ありません……うぅぅぅ……わぁぁぁぁあん」
声だけでも分かるほど号泣するティア。
「トーラスさま……もうこの際だからお伝えしますが……。わたくし、あなたの事をずっと好きでしたの。いつか、生まれ変わってどこかで会えたら、その時は夫婦に……そう思っていますわ」
「セシルちゃん……。僕も、もっと早く告白しておけばよかったね。今更、こんな死の間際になってから後悔してるよ」
つい今しがた見た、似たようなシーンを思い起こすグレインであったが、今はそれよりもこの、味方によって生じた危機をどう乗り越えるか考えるのに精一杯であった。
「死ぬ前に……師匠に……お父さんに会えて……無事だと分かってよかった……これで安心して逝けます」
ハルナは既に死を受け入れたようで、静かに独り言を囁いている。
「ラミア、どこにいるんだ? 俺はお前を支持するぞ。みんなが責めようとも、俺はお前の味方だ」
「ありがとう、ダラス……」
「声のする方はこっちか……ラミア、捕まえたぞ」
「ふふっ、よかった。最期は貴方と一緒に迎えたかったから」
その時、うろたえる一同とは無縁と言わんばかりに、冷静なリリーの言葉が響いた。
「はぁ……兄様……転移魔法で外に出ましょう」
「「「「「あっ」」」」」
「そうだね……言われてみれば、転移魔法の応用で、光と空気の供給穴も作れたよね」
トーラスはそう言って、手のひらの上に二つの球体を浮かべている。
その一方からは強烈な光が差し込み、洞窟の中が一気に明るくなる。
「洞窟のすぐ外と小さな転移魔法で繋いで、こっちは光を、こっちは空気を供給するようにしたよ」
照らされた一同の様子を見ると、ティアが涙で顔をぐしゃぐしゃにしていて、セシルは死者のように手を組んで洞窟の床に寝そべっている。
ダラスとラミアは抱き合っていて、ハルナは座禅を組んでいた。
「みんな……慌てすぎ……たかが死にかけただけで……。大人なんだからもう少し落ち着いて」
この後やや暫く、洞窟の中で最年少であるリリーの説教が続くのであった。
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