第109話 ジョブを持ってる二人
サブリナが騎士達の方へ一歩踏み出すと同時に、グレイン達はアウロラに向けて駆け出す。
次の瞬間、サブリナが呪文を詠唱する。
『
すると、十数人はいたであろう騎士達が次々と膝を折り、恍惚の表情で横たわる。
一方のサブリナは、青い顔をして辛そうな様子で、騎士達と同じように蹲る。
「サブリナ!」
グレインがサブリナの方を見て叫ぶが、サブリナはグレインに片手を突き出し、自分の方に来ないようにと伝える。
「大丈夫……少し気分が悪いだけじゃ……。こやつら、普段から相当なストレスを抱えておったようじゃな」
「あらららー? 王宮騎士団が一瞬でやられちゃった……。なーんて! 王宮騎士団に盾付いたことで、君達は国家反逆罪に問われることになるよー」
アウロラがそう言って、懐から映像記録水晶を取り出すと、そこにはサブリナが呪文を詠唱し、騎士団員が倒れる光景が映し出されていた。
「……アウロラ、お前一体何がしたいんだ?」
グレイン達は既にアウロラを取り囲んでいる。
「ウチの目的は、君達に死んでもらう事と、この国を転覆すること! 国が潰れた後は……あんまり考えてないなー」
「……それで、闇ギルドを結成して国を作ったのか? ……闇ギルドの総裁は……ギリアム……だったか? それがアウロラ、お前の事なんじゃないのか?」
トーラス達は驚いてグレインの方を見る。
当のアウロラは冷静であり、むしろこの瞬間を楽しんでいるかのように、悪戯っぽく舌を出して答える。
「あ、バレたー? ……この国にはね、どうしても許せない男がいるんだ。だから、潰して吠え面かかせてやるんだよ?」
「……じゃあ、俺達は何故殺されなければならないんだ?」
グレインは、今も地面に転がったままのリーナスの頭をちらりと見る。
「もともと『
アウロラの言葉に、顔を見合わせるトーラスとグレイン。
「『ジョブを持ってる二人』……? どういうことだ? 俺達はジョブ無しじゃ──」
「ちょっと待って」
グレインの言葉をトーラスが遮る。
「もしかして……鑑定師には見えないジョブを……僕達が持っている?」
「でも、俺を鑑定したのはこの王国で一番経験豊富な鑑定師って言ってたぞ? 見えないなんてことがあるのか?」
「それでもさ。何らかのジョブを持っていると考えた方が、僕達の持っている特殊能力も説明がつくんじゃない?」
「うーん……確かにそれはそうなんだよなぁ……」
二人が頭を抱えて考え出したのを見計らって、アウロラが口を開く。
「とりあえず全員死ぬんだし、難しい事は考えなくていいんじゃないかなー? 『女神』が干渉してくると面倒だから早く死んでね」
そう言うと、アウロラは呪文を素早く詠唱し、グレイン達の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「こ、これは私の魔法! みんな逃げて! 足元が爆発するわ!!」
ラミアの警告に慌てて飛び退るグレイン達だったが、足元の爆発からは完全に逃れることは出来ない。
次の瞬間、グレイン達は皆手足を火傷した状態で、爆風にあおられて吹き飛び、倒れていた。
「ウチ、一度受けた魔法は全てコピーできるんよ。すごいでしょー」
爆風の砂煙に包まれた状態で、アウロラが胸を張ってドヤ顔を決めていた。
そんなアウロラの腕を、何者かが掴む。
「『
「うわぁ……何これ……。あ、頭が……うぷっ、うげぇぇぇぇ」
砂煙に紛れてアウロラに接近し、腕を掴んでいたのはサブリナであった。
そして、サブリナが治癒術を発動すると同時に、アウロラは地面に蹲り、嘔吐する。
「まずはハルナ殿じゃな」
サブリナはハルナの元へ向かうと、ハルナの火傷は既に彼女の自己治癒能力で跡形もなくなっていた。
「治癒は不要のようじゃな。ではハルナ殿、皆の治療を頼む」
サブリナとハルナは、手分けしてグレイン達を治癒していく。
アウロラは地面に蹲ったまま動けないでいる。
「最後に、サブリナさんですっ」
ハルナはそう言うと、仲間の傷を肩代わりして治癒していたサブリナに矢を突き刺し、治癒魔力を流し込む。
「ハルナ、この依頼終わったら、本当に魔法剣買いに行こうな……。治癒剣術って言いながら矢を突き刺してるの、やっぱ不自然だからさ」
「お金だったら僕がいくらでも援助するよ。なんて言ったって、リリーの命の恩人なんだからね。幾ら出しても惜しくない」
「そうは言っても……。た、たぶん百万ぐらいはすると思うんですが……」
ハルナは以前持っていた剣を買った時の事を思い出しながら、おずおずと価格を告げる。
「いや、それだけの術だ。道具はちゃんと選んだ方がいい。五千万ぐらいの魔法剣を用意させよう── あ、あれ? ハルナさん?」
「ごせんまーん……ごせんまーん……ごせんまーん……」
ハルナは金額を聞いて目をぐるぐる回している。
「ハルナ殿……治療は……終わったのかの?」
腕に矢を刺されたままのサブリナが、困った様子で『ぐるぐるハルナ』に問い掛けているのであった。
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