第067話 暴言
「はい、ミステ……わ、私が、一連の幽霊騒動の主犯です……このたびは、皆様にご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございませんでした」
ミスティは拘束された翌朝、ギルドの会議室でナタリアと『
「あんたは誰に謝ってんのよ。謝るなら幽霊のフリをして脅かした人達にでしょ?」
ナタリアはミスティを睨みつける。
「すっ、すみません、
「ミスティ、……その呼び方やめてって前にも言ったわよね?」
「ああああああああ……申し訳ございません、姐さん!」
「だからぁ!」
ナタリアの怒声で、全身が硬直しているミスティ。
慌ててグレインが落ち着かせようと割って入る。
「ナーちゃん落ち着けって」
「バカグレイン! あんたもその呼び名やめなさいよ!」
「これぞ逆効果、ですわね……。あら、紅茶のおかわりはどこでしたっけ……」
セシルは呆れた様子で三人のやり取りを見ていたが、手元の紅茶が無くなると、おかわりの茶葉を求めて会議室の棚を漁り始める。
「セシルちゃんって、いつもマイペースだよね……。昨日もミスティさんがあれだけ大騒ぎしてたのに、一人だけずっと眠っていたし」
ハルナは会議室を家捜ししているセシルを呆然と見つめながら、その背中に言葉を掛ける。
「ちょっとセシル、勝手にあちこち触らないでよ! ハルナも黙って見てないで止めなさいよ! ……冒険者がギルド職員の職場を荒らすなんて、聞いたことないわよ?」
セシルの家捜しにナタリアも気付く。
ナタリアがセシルの方を向いた隙に、ミスティがぽつりと呟く。
「ん〜? なんだかお取り込み中みたいだし、ミスティちゃんこれで帰ってもい〜い? いいよねー……」
「「ダメに決まってるだろ!」」
目の前にいたグレインと、振り向いたナタリアが、声を揃えてミスティを怒鳴りつける。
「なぁナタリア、こいつのこと知ってるのか?」
「ミスティはいつも問題ばかり起こすから、特にギルド職員の中では『お荷物』として有名よ。まぁ、顔だけはいいからファンクラブもあるらしいけどね」
「『お荷物』か……。それにしても本人の目の前だぞ? 少しは自重しろよ」
「そんなの、気を遣うだけ無駄よ。……ミスティ、いつもいつもあんたは反省してない! 少なくとも反省の様子が見えないわ! 今回ばかりは……ギルドに収監します。しばらく牢屋で反省しなさい! 竜巻盗賊団も騎士団に引き渡したから空きがあるし、丁度いいわ」
その瞬間、ミスティの様子が一変する。
「収監って牢屋に入るんだよね? 布団ある? 食べ物ある?」
その一言で、グレインはミスティの目的を察する。
「お前……最初からこれが目的だったんじゃないか?」
ナタリアはその言葉にぴくりと反応するものの、平静を装っている。
「いいわ、牢屋に収監しましょ。寝床は牢の床に藁が敷いてあるからそこで勝手に寝なさい。食事もパンとスープを提供するわ」
「ぃやったぁ〜!! ……いえ、牢屋で反省します」
いかにも笑いが止まらない、といった様子のミスティであったが、ナタリアは淡々と収監手続きを進めていく。
「良いのか? こいつタダ飯と寝床が──」
「良いのよ。一応明日、またギルドに来てちょうだい」
グレインは首を捻りながらも、ギルドにミスティを引き渡し、幽霊調査の依頼を完了したのであった。
********************
翌朝、グレイン達がギルドを訪れると、ナタリアがギルド裏の牢小屋に案内する。
そこには、牢の中で文句を言っているミスティがいた。
「おいババァ! ちゃんとした食事を出せよ!」
ミスティの暴言により、隣のグレインにまでその音が聞こえるほどナタリアの奥歯が軋むが、ナタリアは平静を装ってミスティに声を掛ける。
「あら〜、ここの食事はお口に合わなかったかしら?」
「これのどこが食事だよ! 昨日の夕食も今日の朝食も、『カビの生えたパン』と『味のしないスープ』ばかり出しやがって! 性格歪んだクソババァが」
おそらく昨夜から食事をとっていないのか、ミスティは完全に怒りで我を忘れている様子であった。
「まだ反省してないようね。行きましょ、グレイン」
ナタリアはそう言うと、足早に小屋を飛び出す。
グレイン達もナタリアの後を付いていき、小屋から出た瞬間、小屋の外で泣いているナタリアを見る。
「ひっく……うぅ……ひどい……ババァだって……うえぇぇ……」
「ナタリア、気にするなよ。まだ二十三だろ? お前がババァだったら俺はジジィに見えるのか? それに……世の中大半の人よりお前は年下だろう? 気にしないのが一番だ。ミスティも腹が減って気が立ってるだけさ。そのうち音を上げるだろ」
「グレイン、ありがと……」
そう言って自らグレインに抱き付き、彼の胸の中で再び声を上げて泣き出すナタリア。
「『カビの生えたパン』に『味のしないスープ』……ふふふっ、……グレインさんが私をパーティに誘って下さった時のパーティ名候補、ですわね」
二人を見て、独り言を呟くセシルであった。
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