第057話 依頼を選ぼう
「グレイン、妹を頼むよ」
トーラスがそう言い残して、ラミアとダラスを伴って転移魔法で王都に戻っていったのが小一時間ほど前の話。
「いきなり暇になったな」
グレイン達は会議室で紅茶を飲んでいた。
「あんた達、いつまでそうしてんのよ。さっさと依頼でも受けて働いてくるか、闇ギルドぶっ潰してきなさいよ。紅茶だってタダじゃないんだから。もうおかわりは受け付けないからね」
ナタリアがため息交じりに会議室でだらだら過ごしている四人に文句を言う。
「「「えぇーーー」」」
本気で残念がる三人を見て、リリーは焦る。
「あの……私……」
「大丈夫ですよっ! 一致団結して、全員分のおかわりを勝ち取りましょうっ!」
ハルナが気合を入れているが、方向を完全に間違えている。
「いえ……あの……もうお腹……紅茶でたぽたぽ……」
困惑するリリーを見て、セシルが助け舟を出す。
「あら、リリーちゃんはお茶菓子の方を希望でしたの? 大丈夫ですわ。そちらもセットで要求を──」
しかし、セシルの助け船もやはりリリーの想像の斜め上を行くものであり、彼女はますます困惑する。
「い、依頼はっ! ……皆さん、依頼は受けないのですか? 皆さんは冒険者なのですよね?」
リリーが本音を口にすると、それを聞いていたナタリアがうんうんと頷いている。
そこへグレインが紅茶を啜りながら答える。
「……今に王都が闇ギルドの軍勢に攻め込まれたら、依頼どころじゃなくなるさ。そうなると冒険者たちは依頼を中断させられて、皆王都の防衛に駆り出される。だから慌てて依頼を受けなくても、闇ギルドの出方を見極めてからでいいのさ」
「あら、それならもう結論は出てるみたいよ? さっきアーちゃんから聞いたんだけど、闇ギルドは今支配下に置いている領地を、『新ヘルディム共和国』って新たな独立国として宣言したみたい。首都はニビリムらしいわ。当分はこの膠着状態が続くんじゃないかっていう話よ? ……つまり、この国が『ヘルディム王国』と『新ヘルディム共和国』の二つに分裂したような状態ね」
あまり政治的な話に興味のないグレインは『ふーん』という感じでナタリアの話を聞いている。
ハルナはティーポットから勝手に紅茶のおかわりを注ごうとし、セシルはお茶菓子を片っ端からもりもりと食べているので、ナタリアの話を真剣に聞いているのはリリーだけであった。
「リリー、あなただけは信じてるからね……」
悲壮感溢れるナタリアの言葉にリリーも頷く。
「ナタリア、つまり今の話をまとめると、闇ギルドはこの国を丸ごと手に入れようとしたんだけど、思いの外王都の騎士団に手こずったんで、すぐに王都を落とすのは諦めて一休みしたってとこだな。まぁ、隙を見て王都に攻め入るつもりなんだろうけどな」
グレインのコメントに、ナタリアがすかさず目を光らせる。
「そうよ! そういうこと! だから今日明日ですぐに王都が危機に陥るようなことはないの。分かったらさっさと依頼受けてどこへでも行っちまえ!」
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「あーあ、結局会議室追い出されちまったなぁ」
「紅茶美味しかったですねっ」
「あのお茶菓子はどこで手に入るのかしら……。気になりますわ」
「私……このパーティでやっていけるかな……」
リリーが不安に思うのも尤もである。
『
「み、皆さん……依頼は……」
「よし、じゃあ各自で好きな依頼を選ぶことにしよう。……俺は決めたぞ」
「私も決めましたっ!」
「わたくしも決めましたわ」
「え……えぇ? ……じゃ、じゃあ私も」
「「「「これ!」」」」
グレインは『墓場の幽霊調査』、ハルナは『盗賊団の殲滅』、セシルは『三日月ダケの採取』、リリーは『神隠しの調査』をそれぞれ選ぶ。
「見事にみんなバラバラですわね」
「ど、どれにするか……決めましょうか……」
リリーがおずおずと提案する。
「いや、折角だから全部受けよう。とりあえず受注手続きしてくるから」
そう言って意気揚々とカウンターに向かうグレインを見て、パニックを起こすリリー。
「えっ? ええっ? 全部同時にですか!?」
それはカウンターで受付をしたミレーヌも同じであった。
「……可能か不可能かと言われれば可能ですが、四つも同時に依頼を受けて大丈夫ですか? それぞれ達成期限も決まっていますし」
「大丈夫じゃないかな? 墓場に向かう途中で盗賊団を殲滅して、幽霊の調査をした帰りに三日月ダケを採取して神隠しの調査をするだけだし。ちょっと場所とか方角がバラバラなだけで」
「「「「いやどんだけハードスケジュールなの」」」」
あっけらかんと言ってのけるグレインに対して、ミレーヌだけではなくパーティメンバーも呆れている。
「本当によろしいんですか? ……では……とりあえず受注手続きはしますね」
「あ、あのっ! ミレーヌさん!」
「──? どうしました、ハルナさん?」
「私とグレインさまの装備品のレンタル料なのですが……」
「あぁ、それでしたらサブマスターから伺っていますよ。全て『貸与』ではなく『支給』するように、と。なので装備品は皆さんの所有物として扱っていただいて結構です。ギルドへの返却も不要ですし、当然レンタル料はかかりませんからご安心ください」
「お、お姉ちゃん……」
ハルナは涙を流している。
「サブマスターは、『最近じゃ借りる人も滅多にいないし、どうせゴミなんだから、あたしの借金返してもらう役に立つならそれでいいわ』と仰っていました」
ミレーヌの余計な一言により、涙を流すほど感謝感激していたハルナが固まってしまったのは、言うまでもない。
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