第五章 15歳の誕生日
第32話 特別な日
真っ暗な空間に彼女が独り。
「ねえ、ルーチェ。あなたは何者なの?」
アリシヤは問いかける。
彼女は答える代わりに首を横に振る。
「じゃあ、私は何者?」
「お前が一五になったら真実を教える。約束しよう」
久々に聞くルーチェの声。懐かしい。
すでにそう感じてしまう自分がいる。
それがとても悲しい。
アリシヤはルーチェに手を伸ばす。
「約束したのに…なんで、なんで、ルーチェ!!」
ルーチェは寂しげに笑う。
「お前は物語に組み込まれるなよ」
彼女の姿がふっと消えた。
アリシヤは、ベットから飛び起きた。
どうやら夢を見ていたようだ。
部屋の中は暗い。まだ夜中だろう。
アリシヤは目じりにたまった涙を払う。
意識しないように心掛けていた。でもやっぱり駄目だった。
今日は一二月二日、アリシヤ一五歳の誕生日。
ルーチェが生きていれば真実を知るはずだった日だ。
ベッドの外は肌寒い。
アリシヤは掛け布団の中に潜り込む。
目をつぶると、ルーチェとの最期の会話が、彼女の最期の瞬間が蘇ってくる。
アリシヤはベッドの中で、膝を抱えて泣いた。
思い出は容赦なくアリシヤを傷つける。
日が昇り、部屋に陽が射す。アリシヤはベッドから体を起こす。
そう、今日はなんてことのない、ただの一日だ。
そう自分に言い聞かせて。
***
「今回も空振りだったな」
「なかなか尻尾出してくれませんね。エーヌは」
リベルタとタリスの声がどこか遠く聞こえる。
アリシヤは目を強く閉じて、そして、かっと開く。
だが効き目は薄い。
不味い。これは大変不味い状況だ。
半端なく眠い…!
今朝は悪夢で目覚め、そこから寝付けなかったため、昼時が近くなった今、強い眠気が襲ってきているのだ。
現在、いつもの図書室で、リベルタとタリス、アリシヤで会議を開いている。
昨日、エーヌの噂を追いかけてある街まで行ったが、どうも噂は出まかせだったようで徒労に終わった。
次は、どの噂をつぶしにかかろうかと相談しているところだ。
「エーヌとは、関係ないんだが、少し気になる話を聞いてな………」
リベルタが何か話している。が、内容が頭に入ってこない。
聞いている、聞いているのだ。
仕事中に居眠りをするわけにはいかないのだ。
分かっている。分かっているのだ。
「アリシヤちゃん?」
タリスのその声で、ハッと顔を上げる。
不味い。寝ていた。
「ご、ごめんなさい…!」
「あはは。大丈夫大丈夫。誰にだってそんなことはあるさ」
リベルタは笑ってそう言う。
「そろそろ昼だし、一階休憩にしようか」
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