第24話 力原課長と安田君 後編

 昨日は、チーム『ツーピース』の仲間たちとコロシアムをたっぷり楽しんだので寝たのは2時過ぎだった。それでも、平日と変わらない朝6時にしっかりと目覚めてしまう俺の社畜ぶりも重症だ。


 今朝も、佑太が起きるまではGOCをやろうと思い、PCの電源を入れ、ゲーム内メールのチェックをしていると、先週フレになったエルフのレゴラスからメールが来ていた。

 見ると、先週のお礼が長々と述べられていて、さらにナインセブンが書いたクラブハワイの体験談のプログ読んで、ますます俺のファンになったと書いてあった。


 レゴラスのメールを読んで、少し気分が良くなった俺は、メール画面を閉じると先日実装された武器を格段に強化できるレアメタルを採る為に、海底都市のリュウグウキングダムに飛んだ。

 このリュウグウキングダムは、俺たちマーフォーク族にとって第2の故郷であり、今の都オトラントに来る前にはこのリュウグウキングダムが都であった。しかし、にっくき悪の枢軸グンデルタールの策略により滅亡の憂き目にあっている。


 今俺は、その滅亡都市リュウグウキングダムの中央にある小高い丘で、1人コツコツとレアメタルを採っている。周りには、成仏しないマーフォーク族の亡霊たちがウヨウヨしている。こんな場所で呑気に石を叩いているのは異様な光景だ。

 単調な作業の為、慣れてくると、コントローラのボタンを継続的に押しながら、スマホの画面でニュースを見ていた。しばらくして、PCの画面に目を移すと個人メールの通知ランプが点いていたのでメール画面を開く。


「エルさん、朝早くからすいません。今日のクラブハワイにお邪魔したいのですがよろしいでしょうか?」

 レゴラスからだった。なかなかのご丁寧な文章に、俺は感心しながら、

「どうぞどうぞ、お気軽に。22時、23時開始の2部制ですが、多分23時の方は混んでいて入れない可能性があるので、可能でしたら22時開始の方が良いと思いますよ」

 と返信した。


      * * * * * 


 そして、その日の晩、今日からナインセブンが正式にホストデビューするという事で、少し早めにクラブハワイに来て、ナインセブンと話をしていた。


「…………ああ、なるほど。そうすればいいんですね」


「うんうん。あと……、新しいおもしろアクションはみんな初めてだから、今日は色々試してみてよ」


 俺は遠巻きに見ているユメノアルバを気にしながら、ナインセブンに説明している。当然顔の表情で読み取れないが、さぞや今彼は不機嫌な事だろう。


「おっけっす」

 ナインセブンは全く気にする様子も無く、ユメノアルバの事を完全に無視している。


 そして、22時前にアカツキがやって来ると、全員がホール中央に集まって、いつものように開店前の挨拶をする。

「みなさん、おはようござます」


「おはようございます」


「クラブハワイも、みんなの頑張りで順調にお客さんも増えて来て、知名度も上がってきました。ありがとうございます。12月に入ってそろそろクリスマスのイベントも考えてるので、また意見あったらお願いしますね。では、開店します」


 そしてアカツキ、ユメノアルバ、俺はいつものように店の入り口に立って客を出迎える。

 しばらくすると、レゴラスとアルウェンがやって来た。さすが、エルフのカップルは歩いているだけでも目立つ。しかも、先日と違い今日は豪華な衣装を身にまとっていた。

 隣にいたユメノアルバが思わず、

「かっこええな……」

 とつぶやくのも良く分かる。


「こんばんは、エルさん。今日はお邪魔します」

 レゴラスとアルウェンが俺の正面に立ち、エルフのみ使える挨拶をした。……なかなか挨拶もカッコいい。


「いらっしゃい。どうぞ、中に入ってください」


「はい、では失礼します」


 すると、ユメノアルバから個人チャットが入った。

「エルさん、知り合い?」


「こないだ、たまたまコロ(コロシアム)で一緒になったんですよ」


「……そかそか、エルフになるのに課金いくらだっけ?」


「5千円すね」


「金持ちやな」


「ふふふ、そうっすね」


「でも……、あれなら出す価値あるかな……」

 ユメノアルバは、呟くように言った。

 


 そして、しばらくして店内も落ち着いてくると、俺はレゴラスとアルウェンが座っているテーブルにやって来た。

「いらっしゃいませ。今日は、わざわざ来てくれてありがとう」


「いや、こちらこそです。それにしても……、すごく室内も凝ってますね」


「うん、これはオーナーのアカツキさんがほとんど一人で準備したんですよ」


「へえ……、すごいな、アカツキさん」



「さて……、ではダンスタイムです。お楽しみ下さい」

 そう言って、僕は席を立つと、ホール中央のステージに向かった。


「おお、やったー♪」


 そして、今日からフルでダンスに挑戦したナインセブンも完璧にダンスをこなして、大いに盛り上がった。


「きゃー、セブンさーん」

「かずきー」

「パルさーん」

「かっけええ」

「セブンさん、サインくれー」

「エルさーん」


 そして、ダンスも終わり俺は、ホールを回っていると、白チャ(全員に見れるチャット)で、


「………………わるすぎにも見習ってほしいものだね」

 

「ですねw」


 アルウェンとレゴラスのチャットが流れている。隣り同士で座るエルフ二人に、珍しくユメノアルバが正面に座って接客をしている。


「……ガム噛みながらお客さんとこはいっちゃうような奴ですw」


 ん? わるすぎ……、ガム噛みながら……、そんな奴身近にいたな……。まあ気のせいか……。


 俺はこの時、アルウェンとレゴラスの会話はどうでも良かったが、ユメノアルバがどういった接客をしているのか気になったので、チャットを気にして見ていると、

「どこにでも、そんな社員いるんですね。そんなのに教える人も大変だw」

 と、ユメノアルバのチャットも流れている。


「レゴラスはいいじゃん、やさしい先輩いるんだからよお」

 アルウェンのエルフの女性といった美しい容姿に反して、口調は普通におっさんなのが、ギャップがあって逆におもしろみを感じる。


「優しいって言うか、甘いって言った方がいいかもw」



 すると、ユメノアルバの客が来て、彼は席を立ったので、俺が席を代わる事にした。


「どうですか? 盛り上がってますか?」


「いやあ、おかげさまで楽しんでますよ」

 レゴラスがそう言うと、

「ナイショですけど、僕ら二人共男なんですけど、ホストの人みんな話上手いから全然楽しめるね」

 と、アルウェンが言った。


 二人共男なんて……、こんなチャットしてたら誰がみてもわかるだろ! とツッコミたくなる気持ちを抑え、


「こないだも言ってましたけど、同じ会社の同僚なんですよね」

 こういったMMOでリアルな話はご法度であるが、俺はなんとなくさっきの話が気になって訊いてみた。


「いやいや、上司と部下です」

 とレゴラス。


「へえ……」


「アルウェンさんが、いろいろストレス溜めてるんで、ゲームで発散しようと誘ったんです」


「なるほど。そういえば、さっきもわるすぎがどうとか、言ってましたね」


「うんうん。……でも、そいつを教える先輩もどうしようもなくてね、ノンベ山って言って、いつも酒くさいんだわ」


「www」


「それは名前負けしてないですねw」

 酒臭い、のんべ山って……、あの人しかいないんじゃあ……。

 このアルウェンとレゴラスは、やはり……。


「このクラブハワイで預かってもらって、みっちり鍛えてもらいたいですわ」


「うちは、スパルタですよ」


「いいねえ」



 ……そして、この時のGOCでの彼らとの偶然の出会いが、現実社会で大いに役立つ時が来るのである。










 








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラブサントリーニへようこそ  浅見とも @1595720

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ