第22話 力原課長と安田君 前編

 秋も深まり年末も近づいてくると、リアルな仕事も忙しくなってきた。しかも村井機械はなぜか1月決算で、この時期営業に対する追い込みも俄かに激しくなる。


 当然ながら我が上司、力原課長のイライラもピークになっている。力原課長や僕、安田が所属するのは、本社営業本部の法人3課とで、民間企業中心の営業を担当している。法人3課のメンバーは、先程の3名の他に、僕の先輩にあたる野辺山主任、新人社員の出木杉に女性事務員の松田さん、伴野さんを入れて計7名となっている。


 僕にとっては、安田が問題なのだが、力原課長にとっては、新人社員の出木杉が頭痛の種だ。たまに力原課長と、仕事終わりに二人で飲みに行くと、

「あれほど、名前負けしている奴を見たことがない」

 と、大いに愚痴っている。


 僕も一度OJT(先輩社員が新入社員等と同行しながら仕事のスキル向上をさせるのを目的とした)研修で同行したのだが、客先に入る直前までガムを噛んでいて、それを捨てる気配がないので質すと、

「あー、口の中の上のとこにくっ付けときますので大丈夫です」

(何が、大丈夫なんだろう??)

 ……そういうやつだ。彼は、バリバリの縁故採用で、うちの最重要得意先の田中自動車の出来杉常務の息子だ。コイツは地方の3流大学を1浪(人)2留(年)して卒業し、もちろん田中自動車のような大会社に入れる訳も無くうちに流れてきた。そして、彼の教育係は、先輩の野辺山主任で、安田の教育係は僕になっている。そして、この野辺山主任がまた厄介だ。どれだけ力原課長に強く言われても全くどこ吹く風で、有給休暇もフルで所得、定時で帰る事当たり前のお気楽社員なのである。しかも、朝はいつも酒臭い……。


 そして、俺は最近なんとなく気付いている事がある。会社としては、この野辺山主任を切りたがっていると……。ひょとしたら、力原課長は、会社からこのミッションを受けているのかもしれない。


 こうなると、力原課長の溜まったストレスを解消してくれるのは、安田という事になる。

 ただ、安田と二人で同行すると、平気で力原課長の悪口のオンパレードだ。まぁ、こういう奴が出世するんだろう……。




 さて、今回、全くMMORPG『ゲーム・オブ・クリスタル』の話をせずに、ここまで来てしまって、大変申し訳ない。しかし、これが今回の話の重要な前振りなのである。



 そして……、ある日僕は、この安田と力原の密会現場に奇跡的に出くわしてしまうのである。



 その日は週末の金曜日で、僕はハイボール2缶を持って鼻歌交じりにPCの電源を入れた。おそらく今の僕の生活の中で一番幸せなひと時だ。


 今日は、コロシアムのチーム対戦をしようと、以前からチームリーダーのヤヨイと約束していたので、僕は日課を少し片付けると、すぐにロマネスクの街に飛んで集合場所のコロシアム受付前の丸柱の前に立っていた。待っている間、ハイボールを1缶空けて柿の種をご機嫌にほおばっていると、大柄で赤い風体をしたレクィナがやって来た。


「エルさん、早いじゃん。まだ30分前だよ」


「ひさびさでさ、楽しみすぎて早く来ちゃったw」


「すげー。やる気じゃん。どう? オートで行ってみない?」


「うん、いいね♪」


 そして、ちょうどやって来たドワーフのガロと俺とレクィナでパーティを組んでオートで募集をかけると……、すぐにマッチング成功となった。

「やっぱ週末のこの時間は多いね」


「そうだね」


 そして、俺とレクィナとガロはコロシアムの闘技場前の待機場所に飛ばされた。 

 そこには、最近実装されたエルフの男女がいた。転生するのに実質課金5千円の為、運営の思惑とは違い、今の所それほど浸透していないので、かなり希少種だ。

 ただこの2キャラ、衣装も統一されており、良く見ると、以前流行った映画のロード・オブ・ザ・リン〇のオーランド・ブルームが演じていたエルフをかなり意識していた。


「ひゅー、カッコいいねえ。エルフが並ぶとやっぱ違うわ」

 レクィナのコメントが表示されると、

「いや、映画好きなんで」

 エルフの男、レゴラスが言った。


「相方さん同士ですか?」

 俺が訊くと、

「いや、相方って訳じゃないんですけどね」

 と、レゴラスが言うと、

「うんうん。まぁリアルな会社の友達ってとこです」

 と、エルフの女、アルウェンが言った。


 そして、レゴラスが、

「僕たち、まだGOC始めて3カ月なので、素人ですいません」

 と、申し訳なさそうに言っている。


 よく見ると、レベルも未だカンストをしておらず育成も中途半端な状態だ。


 ただ、今は練習なので、俺も特に気にもせずにチーム対戦のゴングが鳴った。

 この頃になると、攻撃もサポートも出来るレクィナ、回復蘇生担当の俺と攻撃特化のガロだけでも、そこそこのメンバー相手にも十分に勝つことが出来るようになっていた。間もなくランカーとして、チーム名があがりそうな位置まで来ている。


「うあー。みんな上手いっすねー」

 レゴラスが、感心している。


 ただ、レゴラスは思ったよりは出来ている。そこは、センスだろう。ただ、アルウェンは酷かった。


「さて、じゃあ解散しますね」


「あっ、……すいませんが、もう1戦お願いできないでしょうか?」


「いいっすよ」


 レゴラスがお願いしてきたのでもう1戦することになった。


 そして、待機場所で待っていると、

「そういや、エルさん。すごいね、クラブハワイ。有名ブロガーが軒並み載せてんじゃん」

 と、レクィナが言った。


「いやいや。たまたまw」


「――えっ! エルさんって、あのクラブハワイのナンバーワンの?」


「いや、ナンバーワンではないw」


「うわー。有名人だあ」

 レゴラスが感激している。まぁ、こういった反応はそれはそれで、正直気分はいい。


「ほお、有名人なんだあ。一回行ってみたなあ、俺も」

 と、アルウェンのコメントが出る。

(ん? 男か……。こんな美人キャラなのにな)


 MMOやってると良くある事だが、ふとしたことで性別がばれる。まぁ、運営が公表している男女比率を見ればおおよそ推測できる話だが……。


「今度、よければ来て下さい。楽しいですよ」

 俺がそう言うと、(半ば社交辞令)


「はい、ぜひ!」

 絶対、来そうな返事が来た。


「よし、始めるよー」

 そして、レクィナが言って、対戦が始まった。

 

 結局、次も楽勝だった。

「やった。これでランクアップしました。ありがとうございます」


「いえ、いえ。では、これで」


「あっ、度々すいません。フレになってもらえないでしょうか?」

 そしてこの日は、レゴラスとフレンドになり、ヤヨイとシレンもやってきたので、僕たちは別れた。




 そう、このレゴラスとアルウェンというロード・オブ・ザ・リン〇のキャラ名を持つこの2キャラこそが、力原課長と安田だったのだ。



 俺が、それに確信をもった理由(わけ)とは……。


                               

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