第23話 おもしろアクション実装

 今日も、草加駅から会社のある大崎駅に向かう満員電車の中、スマホでGOCの攻略情報を見ていると、再来週のアップデート情報が詳細に載っていた。次回の目玉はなんといっても、ストーリーだ。いよいよ現時点で最強の敵、グンデルタールとの対決まで進む事になる。


 俺は、ワクワクしながら、掲載している情報を読んでいると、ついでのような感じで小さい枠に『おもしろアクションを実装』と書かれてあった。おそらく大多数のプレイヤーには興味のなさそうなこの実装であるが、僕には凄く興味をそそられる内容だった。


 ――このおもしろアクションとは、いわゆる戦闘系のアクションではなく、日常生活でのアクションの事で、あまり戦闘コンテンツに興味がなく、緩く遊んでいる人向けのようであった。


 その中で一部のアクションが公表されていたので見てみると……


 ・寝る 

(ほほぉ、これはいかにも、緩キャラプレイヤーには好まれそうなアクションだな)


 ・泣く

(ふむ、悪くはない)


 ・ばんざい

(これは、クラブの余興で使えそうだな……)


 ・はくしゅ

(こ、これは、組み合わせたら、いいのが出来そうだぞ!)


 ・踊る

(どういう踊りなのか分からんが、これは使える!!)


 ・楽器を奏でるアクションに音が鳴るようになります。

(おおー!!!)


 ・乾杯

(やっほーーーぅ!!!!)


 僕は、思わず満員電車の中でガッツポーズしそうになっていた。この瞬間から僕の頭の中は、今日の午後からの力原課長、安田と行動を共にする同行営業の憂鬱さを忘れ、再来週のアップデートの後のクラブの事でいっぱいになっていた。



      * * * * * 



 その週の土曜日、クラブハワイでは、このアクション実装の話題で持ち切りだった。おそらく、この実装でここまで盛り上がっているのは、GOCの中でもここだけだろう。


「乾杯のアクションなんて、このクラブの為に出来た様なもんすよねー」


「そうやね」


「やっぱセブンさんのブログで運営が忖度したのかね」


「もしそうなら、めっちゃ早くないっすか。反応」


「どんだけセブンちゃん運営に影響持っとんねんw」


「ww」



「すいませーん」


「はいはい」


「ホストの面接に来たんですけど」


「あっ、はいはい。アルバさん、面接の方来ましたよ」

 カズキが対応して、アルバさんに声をかけている。俺はこの時、部屋の隅でアクションの組み合わせを、ハイボール片手に考えていた。


「中入ってもらって」


「じゃあ、中へどうぞ」


 先々週のナインセブンの体験ブログがアップされると、その威力は絶大で、客も増えたのはもちろんであるが、ホスト希望者も一気に増えて、面接もひっきりなしだ。

 ただ、対応を任されたユメノアルバの圧迫面接に、希望者は次々と辞めてしまっている現状で、アカツキも本当は俺にやらせたいようだが、今の俺は、リア充で余裕がない。


 それにしても、今回のユメノアルバの対応もそうだが、最近、彼の事が良く分かってきた。これは、リアルな日常でも周りに1人はいると思われるが、彼は敵と味方をはっきりと分けるタイプだ。しかも、味方以外は全て敵で、知り合って間もない人も敵から始まる。ただし、味方になるとしっかりと守ってくれるので、これほど頼もしい人はいない。



 そして昨日の朝、ナインセブンからメールが入っていたので、会って話をした。どうやら、この間のクラブ活動が余程楽しかったらしく、本格的にクラブハワイのホストになりたいという事であった。


 それ自体はとても喜ばしい事であるが、今の採用の窓口はユメノアルバだ。おそらく彼はナインセブンを採用しないだろう。俺は正直にナインセブンに現在の状況を伝えた。


「なるほど、じゃあ少し時間置いてからにした方が良さそうですね」


「うん、もう少し待ってくれる? アカツキさんに相談してなんとかするからさ」


「まぁ、俺はエルさん信用してるから任せるよ」


「うん、ありがとう。でも、こんな状況でも入りたいの?」


「アルバさんに何と思われようと、俺気にしないっすからw」


「メンタル強いね、セブンさんはw」


 

 そして、クラブハワイの開店日の土曜日、今日は息子の佑太が珍しく早く寝たので、早めにインをして、アカツキと個人チャットをしている。


「そういうことか……、この間の臨時オープンした時も、アルバさんいなくておかしいなと思ったんだよね」


「そうなんすよね、セブンさんの事気に入らないみたいで」


「でも、エルさんは入れたいんでしょ」


「はい」


「じゃあ、エルさんの意見尊重するわ。じゃあ僕が入れた事にする」


「大丈夫ですか?」

 俺が心配してそう言うと、

「一応、僕がオーナーだからねw。オーナー権限よ」

 とアカツキは返答した。


 そして、しばらくして、ユメノアルバがインをして、やって来た。


「アルバさんさ」 

 アカツキが、早速ユメノアルバに切り出す。


「うん」


「ブログで、ナインセブンさんが、大々的に宣伝してくれたから客も増えたじゃん」


「うん、ですね」


「それでさ……、ナインセブンさんが、正式にホストになりたいみたいだから、入れようと思って……」


「――俺は反対ですね」

 即答だった。まるで、文章を用意してたんじゃないかと思うくらい早かった。


「うん、でも今回は僕の権限で入れるから、悪いね」


「……あい、了解」


 そうして、正式にナインセブンもクラブハワイの一員になり、益々盛り上がっていくことになる。そして、俺たちとユメノアルバの亀裂は決定的なものになっていく……。

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