第21話 感激の瞬間

 いろいろ問題を抱えながらも、クラブハワイはなんとか開店した。今日はいつもとは雰囲気が違い、常連客やある程度クラブハワイを知って来る人以外に、ナインセブン目当てだけの客も数名いる状況になっている。


 ユメノアルバは、ずっとその状況に目を光らせているはずなので、おそらく問題が発生したら、すぐに俺あてに怒りの個人チャットを飛ばす気満々だろう。彼の性格だ、ひょっとしたら閉店後にみんなの前で罵声を浴びせる気でいるのかもしれない……。



 だが、彼の期待に反してクラブハワイは順調に進んでいる。外にいる客を担当してもらっているカズキも相変わらず上手くやっているようだ。そのへんは、彼はソツがない。一緒にいるコンバットさんやパルテノンさんも、どちらかというと鈍くさい部類だが、言われた事は真面目にやる人達でそこは信頼できる。



 そして、なんとか無事に前半の1部が終わり2部が始まる。1部の間のナインセブンは、自分目当てでやって来た客の相手をして、俺の指示通り、他の客とのトラブルにならないように注意を払ってくれているようだ。


 2部のダンスステージの前に俺は、ユメノアルバにナインセブンをステージに立たせてダンスをさせる事を強くお願いした。始めは拒絶していた彼であったが、初めて俺が発した強い言葉に、驚いた様子で渋々承知した。


 そして、いよいよナインセブンのステージでのダンスが始まる。さっきまで客とおちゃらけて会話をしていた彼の口数が減って、緊張がなんとなく伝わってくる。


「お客様、では私共ホストによる、ダンスタイムです。ここで本日の体験ゲストで入ってもらったナインセブンさんにも登壇してもらいます。よろしくお願いします。」

 俺が、ダンスステージの始まりを告げるアナウンスをすると、ホールも大いに盛り上がりを見せる。

 

「待ってましたー」

「いえーい」

「やったー。セブンさーん」

「おおー、熱いぜー」


 そして、ナインセブンとホストがステージに上がる。さすがに今日は、みんなと合わせたダンスはするのは無理があるので、特別にナインセブンは俺とのコンビで踊る事にした。


 ステージの下では、ユメノアルバが睨みを利かせている(気がする)。俺は今日、ステージ下の彼のプレッシャーに耐えながら、ナインセブンを上手く演じさせるミッションをクリアーしなければならない。


「88888」

「8……8……8……」

「パチパチパチ」



 思い思いの客の手拍子でダンスが始まった。昨日は1時間程度の練習であったが、俺とナインセブンのコンビはいい感じで入れている。ここでもナインセブンのセンスと度胸の良さが窺える。

 

 そして、途中の難関のコンボもクリアして、最後のダンスは他のホストが後ろに下がって前面に出た俺とナインセブンが、○△ボタンでお互い斜めにジャンプしながら交差して、AC(アクション)ボタンで、マーフォークのオリジナルアクションの竜巻のように上に飛びあがると恰好良く着地した。


 その瞬間、観客からは大きな歓声のチャットが巻き起こり、盛り上がりは最高潮を迎える。外にいた客も入り口付近まで入って来て大喜びだ。


「さいこー」

「セブンさんかっこいい」

「88888」

「ワー、ワー」

「アンコール、アンコール」


「これにて、ダンスタイム終了いたします。ありがとうございました」

 そして、ホストも客の待つ座席に戻ったが、ナインセブンはステージの上に残ったままだった。俺はナインセブンに個人チャットを入れる。



「セブンさん、お疲れ様。ステージ下りていいよ」


「……」


「?」


「……いや、感動しましたわ。昨日1時間しか練習しなかったのにここまで出来るとは」


 ――泣いてんのか? 


「うんうん、すごいね。セブンさんセンスあるわ」


 歓声を浴びたナインセブンは感動している。


「いやいや。この歓声最高っすね。思わずスクショ撮るの忘れましたw」


「あら……。有名ブロガーのセブンさんにはあり得ないミスですねw」


「全く、お恥ずかしい。それで、今悩んでました」


「なるほど。まあ明日もありますし……そこで撮りましょう」


「そうですね。いやー、それにしても、ブログでもファンから褒めてもらえることはあるけど、こんなにリアルで盛り上がるってのは、すごいですね!」


「うんうん、楽しいでしょ」


 そして、2部も無事に終わり、閉店の挨拶に俺が立った。


「今日もお疲れ様でした」


「お疲れ様です」

「お疲れ様~」

「お疲れです」


「今日は、ナインセブンさん体験という事で、みなさん協力もあって無事に終了しました。有難うございました。後、業務連絡ですが、今月末のハロウインイベですが、運営のイベと重なってしまうので日程調整しますのでお願いします。では、セブンさん一言どうぞ」


「いやー、みなさん有難うございます。とても貴重な体験させてもらいました。次回のブログに早速載せますのでよろしければ読んで下さい」



「おー、人気ブログデビューだぜ」

「やったーw」


「では、最後にアルバさん、どうぞ?」


「……いや、今日はいいわ」


「あ……っ、はい。じゃあ今日は解散しますね」


「おつかれっしたー」

「では、また来週」


 そして、翌日ナインセブンのブログのファンの方々を中心として、臨時でクラブハワイが開店した。店側では、ナインセブン、アカツキ、カズキ、パルテノン、コンバット、俺に有志で参加してくれたメンバーが接客した。有名ブロガーもたくさん来て、予想以上に盛り上がり、ナインセブンとそのファンの方々も大いに喜んでくれた。ナインセブン以外の有名ブロガーが、この日のイベントを宣伝してくれたこともあって、「クラブハワイ」の知名度は大いに上がる事となった。


 その反面、後に起こる騒動も大いに目立ってしまう事になるのだが……。そして、今日の場には、ユメノアルバと彼と仲の良いメンバーは顔すら出さなかった……。


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