第20話 スキル

 今日は、休みの日の朝。平日と同じ朝6時には目が覚め、長男の佑太が起きるまでの間、ゲーム内の日課を片付ける為にGOCを始めた。


 GOCをスタートさせると、ナインセブンからゲーム内のメールが来ていた。昨日のクラブハワイの接客やダンスの練習のお礼が丁寧に述べられていた。おちゃらけてはいるが、こういう事はしっかりしているようだ。文面からはなんとなく彼の興奮も伝わってきて、今まで体験したことがない刺激的な事だったと言うのは本当なのだろう、明日が楽しみで寝れないと書いてあった。


 そして、アカツキとユメノアルバからもメールが届いている。アカツキからは、出張で帰れそうにないから、今日のクラブを俺にお願いすると書いてあった。ユメノアルバからは……、予想通り、ナインセブンについての批判の言葉が並べられている。


 そして俺は、日課を消化する為に発掘者に転職して、しばらく金山で金塊を掘っていると、息子の佑太の廊下を走ってくる足音が聞こえてくる。……今日は、いつもより起きるのが少し早いようだ。



 僕はゲームを諦めてパソコンをシャットダウンすると、リビングで佑太と朝のスキンシップをしてからキッチンに行く。そして、佑太の為に卵とウインナーを焼いて、容器に入れたコーンフレークに牛乳をかけ、オレンジジュースをコップに注いで、それらをテーブルに置いてあげるのが休みの日の朝の日課だ。

 ……そして嫁はまだこの時間は娘の楓と布団の中にいる。


 クラブハワイがある土曜日の夜は、息子に気持ちよく早く寝てもらいたい。その為に、日中はなるべくたくさん遊んであげるようにしている。どこか遠出で遊びに行く日以外は、近くの公園に行く事にしているのだが、さすがに子供は年々体力がついて来て、逆に衰えてきた自分の体力では疲れさせるのも一苦労だ。これに限界を感じた時がGOCを引退する時なのだろうか……、と最近考えて始めている。



 今日も日中、公園で佑太と思う存分遊んだので疲れて寝てしまった。今の所、嫁も佑太が大人しく寝てさえすれば特に文句は言わない。

 俺は夜10時ギリギリにGOCを始めるとすぐに、カレルンの丘に飛んでクラブハワイに入って行く……。


 さて、ここで最近難題が一つある。それはリア充(現実社会の生活が充実していて忙しい人)気味で、最近少しイン率が低下しているアカツキだが、クラブハワイに出られない時の代理を俺に頼むのである。一応事前に話して了解を得ているのだが、ユメノアルバがオーナー代理なので、彼の性格上、面白い訳がない。しかし、アカツキも胸に思う所があるのであろうことは容易に推測できる。

 

 今日も俺がクラブハワイに入っていくと、取り巻き連中と全チャット(全員に見えるチャット)で楽しく会話をしている。そして俺が入って来た事に気付くと、流れていたチャットの文字が止まり、微妙な空気が漂うのである。俺は性格上、そういった空気を敏感に感じでしまう。まぁ……疲れる性格だ。こういう事に鈍感な人間は羨ましい。


 そして、こういう事に鈍感そうに振る舞えるのがこの男だった。

「いやー、どうもすいません。ナインセブンです。今日はよろしくお願いします」


「どうぞ、よろしく」

 みんなが挨拶する中、案の定、ユメノアルバからの返事はなく、取り巻き連中も微妙な空気を漂わせるが、ナインセブンは意にも返さない様子だ。


 すると、カズキが猛ダッシュでナインセブンに近づいて行き、

「いやー、有名ブロガーのナインセブンさんと話が出来るなんて光栄ですわ。いつも『ナインセブンの11PM』見てます」

 と言った。


 カズキの人なつっこさも、俺にはないものだ。出会った人をすぐに味方にしてしまう魅力が、彼にはあるように思える。

 そして、俺にはないものを持つ2人、ナインセブンとカズキが、ここで出会うのである。


「ありがとうござます。でも……、今日は見習いですので邪魔にならないようにしますw」


「何言ってんすか。ナンバーワンブロガーがw。僕もぜひ登場させてくださいね」

 カズキが調子良い事を言っている。


「では、朝礼始めます……」

 いつも通り、朝礼の挨拶を始めようと俺がみんなの前に立つと、

「――その前に」

 と、ユメノアルバが割り込むように発言した。


「どうしました? アルバさん」

 俺は、途惑いながらユメノアルバに確認する。


「ナインセブンさん。今日は体験なんだから……始めは端の方で見ていて下さい。後で、俺が指示を出しますので」


 予想通りだ。ユメノアルバからしたら、今日の代理の事やナインセブンの事でも、かなりストレスを溜めている事は想像できる。俺は、ここは表立って揉めない方がいいと判断した。下手に彼のプライドを刺激しない方がいいだろう。


 ――後でユメノアルバとは個人チャットで話をしよう。そう思い、ナインセブンにはすぐに個チャットを入れる。

「ごめんね、セブンさん。後でアルバさんには話しするから、ここは我慢してくれる?」


「了解。すいませんね、面倒な事になっちゃって」


「いえいえ、大丈夫です」


 そして、全チャットに戻して、

「じゃあ、それでお願いしますね。セブンさん」

 と言った。


「はい、了解です」


「では、朝礼始めます……」



 そして、22時になりクラブハワイは通常通り開店した。ところが、ここでも問題が発生する。事前には告知しないようにお願いしていたが、ナインセブンが今日、クラブハワイの体験をするという噂を聞きつけたファンが大挙として押し寄せたのである……。


 この時期は、客もただでさえ多く、2部制をとっても溢れるくらいであった。案の定、ユメノアルバはまたしても個人チャットで怒ってきた。


「今日の仕切りはエルさんだから訊くけどどうする? 俺は全員帰ってもらった方がいいと思うけどね、セブンさんのファンには」

 一見、俺に尋ねている様子だが、ビンビンに尖ったトゲを感じる。


「――いや、あんまり強引な事して悪評たつのも悪いし、なんとかしましょう。俺が考えますわ」


「……うん、分かった。じゃあエルさんに任せるから、頼むわ」


「了解です」


 そして、グループチャットにして、ナインセブンとカズキと相談する。


「セブンさん、ごめんね。ちょっと人数オーバーになりそうなんだけど、今日来ているファンの方で直接個チャできる人いる? 明日、セブンさんのファン向けで特別に開店するからさ。明日は多分アカツキさん出れるし……、カズキ、明日はどう?」


「いいっすよ、俺、明日出れますよ」


「ごめんなさいね、色々してもらっちゃって……。じゃあ個チャで話せる人は明日にしてもらって、今日は帰ってもらいますわ」

 ナインセブンの恐縮する雰囲気が伝わってくる。恐らくユメノアルバの様子も想像出来ているのだろう。


「うんうん、ありがとう。セブンさん」


「……あと、カズキ。頼みついでで申し訳ないけど、今日セブンさんの残った客優先的に入れるから、入店出来ない人は外で接客してくれる? コンバットさんとパルさん付けるからさ」


「おkっす」



 そして、俺はユメノアルバに個人チャットを入れる。

「アルバさん、とりあえず帰れる人は帰ってもらう事にした」


「全員じゃないんだ……」


「うん、ブロガーも何人かいるしさ、あんまりやり過ぎると……」


「――分かったよ、了解」


「それで、……残ったセブンさんのファンの人は、優先的にいれます」


「えっ!」


「――と言っても、俺とカズキ以外の、他のメンバーの客にはあまり影響がないようにするので」


「指名ないのは?」


「そこは基本順番で」


「うん、まあいいや。納得出来ないけど、もう時間がないからしょうがない……」


「ごめんね、アルバさん」


「了解」


 この日、俺はなんとかユメノアルバを説得して、クラブハワイは無事に開店することが出来た。


 そしてこの件に関わった人には、俺の調整能力というスキルを認めてもらうきっかけになった。しかし反面、ユメノアルバの俺に対する見方も危険人物へと変わっていく事になる……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます