第18話 厄介な客

 クラブハワイもグランドオープンしてから1か月が経過していた。この間にホストたちのダンスもどんどん上達して毎回大いに盛り上がり、ゲーム内の知名度もどんどん上がっている。……最近はアカツキとユメノアルバの関係も落ち着いているようだ。


 そんなある日、クラブハワイに『厄介な客』がやってきた。

 この頃になると俺にも固定客がついて何人かの客を同時に相手をすることも度々あった。上客用のテーブルで常連客のドワーフのマリアンヌちゃんと楽しく会話をしていると、聞き覚えのあるチャットが目に入る。


「エルピョーン!」

 こんな独特な呼び方をするやつは、ヤツしかいない……。俺は一瞬で気づいたが、始めは無視をした。


「おーい、エルピョーン。おひさー」

 こっちに向かって走ってくるフェアリーの女……、相変わらず恰好は可愛らしい。だが、性格は……。


 そして彼女は、マリアンヌちゃんの隣の席に座る……。

「すいません、お客様、こちらは別のお客様の席でして……」

 俺は努めて事務的に話をする。


「水臭い事いわないでよ。元カノに……」

 おい、おい、何言ってんだコイツ! ――俺は内心を表に出さず、あくまでも事務的に対応しようと決めた。


「すいません、私はゲーム内では彼女とか相方というようなものは作った事はございません」

 そして、

「おい、カズキ。お相手してあげてください。あちらの席で……」


 そう言ってから、カズキに個チャを送る。

「この女、前のチームのリーダーの相方でさ、そいつを焼きもち焼かせる為に、散々俺を利用したんだよ。……それでチーム抜けたんだよね」


「www。まじっすか、酷い女ですね。俺に任せといてください。そっちには近づけませんので」


「フェアリーのハニー。どうぞこちらへ」

 カズキがエスコートしようとミズキに近づくと……。


「――いやだ! エルピョンがいいの!」

 こ、こいつ……、俺はこのままでは、ここまで築き上げてきた俺の威厳が一瞬で崩壊する危険すら感じた。


 俺は、たまらず個人チャットでミズキに、

「たのむわ、ミズキさん。騒ぎ起こさないでよ……。俺、雇われ店長だから、首になっちゃうよ」

 と、お願い口調のチャットをした。


「ごめんごめん、でも、いいじゃん。遊んでよ」


「……元カノなんて言うからさー」


「へへ、こんな大きなお店の店長が元彼なんてカッコいいじゃん」


「――嘘は、ダメだよ。でも」


「うん……、ごめんなさい」

 急に健気な感じを装っているが、本性は分かっている。


「とりあえず、今はカズキと一緒に別のテーブル行ってくれる? 今は接客してるから」


「あい! 了解!」


 そして、この日は、カズキに連れられてミズキは別のテーブルに移動した。


 翌週土曜日、また彼女は来た。だが、今日はご指名だ、こうなると断れない。

「へへへ、今日はちゃんと並んで指名したよ」


「ご指名ありがとう。でも、他のお客さんの指名がきたら、ずっとここには、いられないからね」


「えー、いやだー」


「そうしたら、この間のカズキをつけるからさ」

 この間は、カズキが上手くやって大分気に入られたようであった。帰りは俺の存在を忘れてカズキに、バイバイと言って、帰って行ったくらいだったので、俺は内心ほっとしていた。


「うーん、どうしょっかなー」

 お前に選択肢などない――内心、俺はそう思っていた。


「でも、どうしたの? 相方のあのリーダー、えっと……」

 俺は話を相方の話題に変え、そこに彼女を追いだす為のきっかけがないか、探りを入れてみる。


「――キッドね」


「そうそう、ハヤブサキッド……さん」


「また、浮気してるのよ、今。ぶさいくなフェアリーと」

 ――あの頃と何にも変わってないんだな、この人も彼も……、と僕はリアルな溜息を吐いた。


「あっそう……」


「ところで、エルピョン。なんで急にチーム抜けたの?」

 あの状況で、俺が抜けた理由を想像できないのか――俺は、このフェアリーの頭の温かさに驚いた。


「いや、まぁ、このクラブの準備とかで忙しくなったしね……」

 俺は、適当な言い訳をする。


「そっか……、戻って来る?」


「いや……、もう別のチーム入ったから」


「そっかそっか、エルピョンは浮気性だなぁ」

 何言ってるんだ、この……。

「――エルさん、ご指名のビビさん入店しました」


「あっ、ごめんね、ミズキちゃん。あっちの席行くね。カズキ呼んでくる」

 俺はほっと安心をして、席を立った。


「あいよ」



 俺にとって順調だった『クラブハワイ』だったが、暗雲が立ち込め始めていた。解決策も分からないまま、しばらくこの『厄介な客』に悩むことになる。





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