第17話 コロシアム

 このGOCの世界には、各種族の都のある大陸が存在する。その大陸に周辺を囲まれている海の中央に大きな島があり、そしてそこには、『ロマネスク』と言う名の各種族の影響を受けない高い壁に囲まれた自治都市が存在する。そのロマネスクの街は、各種族の代表5人により、高度な自治が保たれている。

 そして、そのロマネスクの街の中心にあるこの世界最大のコロシアムは、このゲーム唯一のPVP対戦が出来る場所である。


 ――PVP対戦とは、対人対戦の事を言う。プレイヤー同士が1対1、または多人数のチーム同士で戦う。GOCでは、1対1、チーム対戦のどちらも可能である。


 俺は、これが、非常に魅力的で面白いコンテンツである事は分かっていたが、正直これに手を出してしまうと、俺に与えられているゲーム時間の中で、他の事が出来なくなる恐れがある為、今まで避けてきた。


 しかし、いよいよGOCの運営(会社)はこのコロシアムに本格的に力を入れ始めたようだ。そして、1か月に及ぶこのコロシアム関連のイベントが始まったのである。



 この頃には、俺は人数が150名を超えるGOC内でも割と有名なチームに入っていた。

 ――ある日、オートマッチングで知り合った大柄なデーモンの女、レクィナと仲良くなり、しばらくパーティを組んで一緒に遊んでいた。そのレクィナが、副リーダーの1人だったのが、このチーム『ツーピース』であった。


 そして、ある日、彼女から誘われてこのチームに入ったわけだ。

 俺が、最近徐々にGOC内でも有名になりつつあった『クラブハワイ』の店長ということもあって、チームに入った時は盛大に歓迎された。


 このチームは、それ程ガチな感じではなかったが、そこそこプレイする時間に余裕があって、ゲームを楽しんでいる人も多かった。後で気づいた事だが、このチームは女性の比率が非常に高く、子持ちの奥さん方がたくさんいた。リーダーのヤヨイもデーモンの女だったが、彼女は子育ても落ち着いて、子供が学校に行っている平日の日中はほぼインしていると言っていた。


 そして俺が、このチーム『ツーピース』に入った頃に、ちょうどこのコロシアムイベントが始まったのである。


 始め、リーダーのヤヨイからこのコロシアムイベントに誘われた時、俺もチームに入ったばかりなので、なんとなく断りづらくてこのイベントのチーム対戦に参加することにした。


「エルさん、コロ(シアム)やったことある?」


「いや、やった事ないんすよ、初見でも大丈夫ですかね?」


「うん、大丈夫。私と、レク(ィナ)ちゃん以外は、みんな初見だから」


「――でも、エルさんと何回か強ボスの戦闘いったけど、凄く上手いからすぐに慣れると思うよ」

 レクィナにそう言われると、俺も悪い気はしない……。



 ――このロマネスクの街を開放をするクエストの時に、コロシアムに何度か訪れた事があったが、その時は一度滅ぼされた街という設定だったので、敵ボス以外誰もいない閑散とした感じだった。

 今日久しぶりに来たこの街は、随分賑やかになっており、コロシアムの中の周辺を囲む観客席には何人かのNPC(人が操作しないキャラクター)と見物する為の一般の観客で盛り上がりを演出している。


 対戦する2チームは、各5名で闘技場の中央の円形のフィールドで戦う事になる。そして決闘の始まる直前、円形のフィールドにはランダムで壁や大きな石等の障害物が置かれる。その瞬間にこの障害物をどう利用するかを考える事が必要になる。

 決闘は、基本的には全滅をすると負けとなる。(これについては、後のアップデートでリタイア機能が実装され、途中で棄権することが出来るようになる)


 やり始めた頃は、みんな職業もバラバラで適当であったが、何回かやっていく内に戦術が必要な事に気づく。職業もバランス良く配置することが重要だ。今回のイベント前半は対戦する回数だけで、景品がもらえる初心者に優しい仕様だ。おそらく運営はこれで、このコロシアムのファンを増やす作戦だろう。そして、次回のイベント後半では、勝ってランクを上げるごとに景品がもらえる……、段階的に嵌めていく作戦だ。


 順番を待つ待機場所で、みんなとグループチャットを使って作戦を考えるのは非常に楽しい。このメンバーでは回復職が得意な人がいなかったので、僧侶が出来る俺が回復担当になった。地味だが、一番重要なポジションだ。

 そして、何回かやっていると、勝てるようになってきた。……やはり、やり込んでいるだけあってヤヨイとレクィナは上手い。


 武士のヤヨイと、攻撃のサポートをするアーチャー(弓)のレクィナのコンビは、俺の見るところ最高だ。そして、全体の防御力を底上げするメカニックのシレンと攻撃特化の忍者ガロの動きも悪くはない。これは、練習を重ねて連携を強化すれば、そこそこ強くなるメンバーのように感じた。


 夢中にやっていて時間が経つのも忘れてしまっていたが、ふと時計を見ると、1時を回りまもなく2時になろうとしていた。

 最近ではこんな時間まで起きていた事は無かったので、時計を見て少し焦った。


 俺は、グループチャットで

「ごめんなさい、今日はもう寝なくちゃ」

 とチャットを入れた。


「あっ、もう……そんな時間か」


「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」

 そうヤヨイが言って、この日は解散した。



 しかし、俺はまんまと運営の作戦に嵌まり、このイベントでコロシアムに夢中になってしまい、当分、寝不足が続くことになる。日中もスマホで攻略コーナーを読む回数が増えた。



 だが、会社で「おっさんずラブ」コンビにメンタルをやられてた僕は、このおかげで嫌な事を忘れて、随分ストレスを発散することが出来たので、これはこれで有難かったのである。



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