第14話 クラブハワイの店長

 今日、グランドオープンした『クラブハワイ』は、今のところ大きな問題もなく順調にきている。


 23時からの第2部では、アカツキ、ユメノアルバが店内に入り、俺とカズキは店外に待機中だ。定員オーバーを知らずにやってきた客に、今日の入店はもう出来ない事を伝える為であった。


「エルさん、大成功でしたね。進行役も完璧でしたわ」

 目の前に広場が見える店の入り口の前で、カズキが俺に興奮気味に話しかけてくる。

「いや……、俺は用意していた文章をペーストしてただけだからさw」


「いやいや、うまいこと臨機応変に対応してるなって、感心しましたよ」


 ――このカズキとは、これから長い付き合いとなる。この時のリアルな彼は、大学4年生。就職も決まって単位も余裕があり、暇を持て余している感じだった。後になってから分かるのだが、俺の卒業した大学の後輩でもあった。

 妙に俺を慕ってくれて、後に俺が大学の先輩だと分かってからは、親近感を込めて、『先輩』と呼んでくれるようなった。ゲーム内では弟分的な存在であった。

 

これから後に起こるアカツキ脱退や、分裂騒動の時にも俺に最後まで付いてきてくれた。


――そしてこのカズキと、もう少し後に出会うナインセブンの2人は、エル・スタークの両翼とまでGOCの世界では言われる事になるのである。――まぁ、勝手にナインセブンが自身のブログで大々的に謳ってしまっただけなのだが……。



「あの……、今日クラブは、やってないんですか?」

 途中、お揃いのコスチュームで統一したお洒落なドワーフの3人娘がやってきた。


「――ごめんないさい、今日は予想以上に多くて、もう定員オーバーなんですよ」

 俺がそう言うと、

「ああ……、そうなんだあ」

 残念そうな声を上げるドワーフ娘たち。


「来週は必ず、優先するからさ。来週また来てくれる? ……子猫ちゃん」

 カズキは、どこで覚えたのかウインクするポーズをしている。


「うん、来週頑張って、もう少し早く来る!」


「ありがてええ」

 そう言って、カズキは回転してポーズを決める。


「ははは、カズキ君たのしそー。来週指名するね」

 そう言って、3人のドワーフ娘はカズキを囲む。


「やったぜ、よろしく。かなちゃん! ハルオーネちゃん! もんもんちゃん!」


「じゃあねー♪」

 そう言うと、ドワーフ3人娘はどこかへ飛んで行った。


「……子猫ちゃんって表現、古くねえか?」

 俺は3人娘がいなくなってから、カズキに言った。


「いや、ネットで調べたら、なんかに書いてありましたよ。ホストの言葉集に」


「それ、多分古いわ。情報……」


「そうっすかね……」

 それでも、ネットで事前に調べて準備してきている彼の向上心には、好感を持った。


 それからも、何人もの客が、店を訪れてくれたが、俺とカズキの機転の利いた対応に満足して、また来てくれることを約束して帰って行った。


 そして、もうそろそろダンスタイムも終わる頃かな、と思っていたら、俺とアカツキ、ユメノアルバのグループチャットにコメントが入る。


「ダメだな……。これはもっと練習しないと」

 ユメノアルバのいかにも不満そうなコメントだ。


「今の段階なら、十分じゃないの?」

 と、アカツキがフォローする。


「特にコンバットさんとパロさんが酷いな……。エルさん、前半どうだった?」

 ユメノアルバに訊かれ、彼らは正直かなり失敗が多かったが、今それを言って助長させない方がいいと判断して、

「今の段階なら、まあまあ出来ていたと思いましたよ。もちろん完璧ではないですけど……」

 と軽い感じのコメントを入れた。


「うん……」

 と納得したかどうか分からないが、相槌を打つユメノアルバ。


「まぁ、今日は客も盛り上がってたから良かったんじゃないですか」

 俺がそう言うと、ユメノアルバは、

「いや、あんまりなんだよな……、今は」

 と言った。


「あっ、そうなんですか……。やっぱりその時の、客層もあるんですかね」

 俺が、そうコメントすると、ほぼ同時に、個人メールがアカツキから入った。

「――ちょっと、アルバさんの進行が良くないんだよね。上から口調だしさ……」


「なるほど……、そうですか」


 そういうやり取りが裏でありながらも、クラブハワイの初日は、全体的には無事に終わった。



 俺とカズキも店内に入り、最後に俺が、店長として客に挨拶をした。

「店長のエル・スタークです。本日はご来店いただき、ありがとうございました。まだまだダンスも接客も未熟ですが、今後も、皆様の憩いの空間となれるよう努力して参りますのでご指導賜りますようお願いいたします 」


「わー、エルさん、楽しかったよ。ありがとー」

「88888」

「また来るからねー」


 そして、店の出口ではアカツキと並んで立っていたが、客はみんな楽しそうに仲が良くなったホストに、声をかけたりしながら帰って行く。

 隣で並んでいたコンバットも「こういったホストの疑似体験が、出来るのって楽しいですね」と、とても嬉しそうに言っていた。

 アカツキさんも「良かったよね、エルさん」と満足そうに言ってきたので、

「はい、客もホストも喜んでれば、大成功ですよね」と、僕は返した。

 

 今日の、『クラブハワイ』のグランドオープンは、客もホストも盛り上がれて、とても楽しめる空間になったので、上々の滑り出しであった。

 

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