第13話 グランドオープン 

『クラブハワイ』がグランドオープンした。

 

 GOCでも、こういったクラブやホストクラブは、小規模なものや、プレイヤーイベントで臨時にオープンしている店は今までにいくつかあったが、ホストの数も揃えていて、ここまで本格的なものは、今回が初めてであろう。

 

 事前の告知も大々的にやっていたので初日から大勢のお客さんが来店しれくれた。一度に入りきれないので、アカツキ、ユメノアルバと話し合い、1時間で交代して、1部と2部に分けることにした。


 ゲーム内での通貨をもらったり、飲食物を出すような事もない中で、いかに雰囲気を楽しんでもらうかといった事が重要になる。


 その為に俺達は、ダンスや楽器演奏、盛り上げる時の掛け声などの練習をして、今日の本番に備えていた。2週間みっちり特訓したので大分サマになっていたが、まだ改善の余地はあった。


 アカツキはその辺りは、開店してから直してゆけばいいと話していたが、おそらく完璧主義者であろうユメノアルバとは意見が合わなかった。……ここ最近、アカツキが俺を3番目のポストにつけたのは、この調整役の為じゃないかと思い始めて、少し気が重くなっている。



「いらっしゃいませ。『クラブハワイ』グランドオープンです」


 あらかじめ決めておいた配置でアカツキ、ユメノアルバは外の入り口の所で客を出迎え、俺は店の中でアナウンスしながらクラブ内に入店された客を迎え入れる。そして、店内に配置されたホストが席に次々と客を誘導していく。


 マーフォークのホストはみんな王子様風の恰好で統一されており、店内も煌びやかな雰囲気を出している。

 入店してくる客は口々に感嘆の声を上げてくれて、それを聞くと、俺は少し安心した。


「入店、ありがとうございます。本日は体験入店となっておりますので、ホストのご指名等は出来ませんのでご了承ください。お時間は10時から11時迄で交代となります。何卒よろしくお願いいたします」



 今日は店の外に入りきれない、何十人もの列が並んでいる為、アカツキとユメノアルバは外で待つ客の接客をすることにしていた。その為、店内ではあらかじめ決めたおいた段取り以外は、俺に任されていた。


「ホストは各テーブルに着いて、接客を始めてください。ではお客様方、本日はお楽しみ下さい」

 そう言って俺は、ホール内を見回してホストがついていない席がないか等の確認をする。


 店内のチャットの方法は、基本的には店内の全員が見れる全チャット(白チャット)になるが、グループチャットと言って強ボス戦等で、戦う前に作るグループのチャット機能を利用して、一時的にグループを作ってチャットをする事も出来る。さらにホストとの個人的な会話がしたい場合は個人チャットも可能だ。この各々のチャットの表示は色分けされていて、全チャットは白文字、グループチャットは青文字、個人チャットは赤文字になっている。



「この後、10時20分からホストによるダンスショー、10時40分から楽器の演奏を行います」


 あらかじめ接客の練習も念入りにしているので、ホストは客との会話を上手く盛り上げているようだ。思ってたよりぎこちなさは無く、俺は出足に満足している。


「では、間もなく20分になりますので、ホストによるダンスショーを行います」

 俺がそう言うと、あらかじめの段取り通り、ホストは中央のステージに上がる。


「ギガンテツさーん、がんばってー」

「めだまおやじさん、かっこいい」

 仲良くなり始めた客からの歓声も上がり、なかなかいい感じだ。


 俺は、ダンスホールのステージにあがり、ホストのいる中央に立って、×ボタンを長押しして、回転の動作をし、□ボタンを押して、手を挙げる。――俺は、格好よく回転をして高らかに手を上げた。その瞬間、大きな歓声が上がる。


 ゲーム内での事とは言え、初めての経験だ。俺はこの時、キーボードを打つ手が汗ばんで少し、緊張を感じていた。酒を飲んで緊張を和らげようかとも思ったが、ミスがあってはいけないので今日は、控えておいた。


「本日は、グランドオープン致しましたクラブハワイにご来店くださいましてありがとうございます! 当クラブ店長のエル・スタークです」


「エルさん、かっこいい」

「エル店長―」

「88888」

「エル様ー」

 

 客の歓声が落ちつくのを待って俺は言葉を続ける。今、とてつもなく気分がいい。現実世界では、しがないサラリーマンでは味わえない感覚だ。

「この度のオープンに向けまして従業員一同、ダンスの練習を一生懸命してきました。まだまだ、完全ではない部分もございますが今後も精進して頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。では、みんないいか!」

「おー!」

 ホストから掛け声が上がる。

「では、……レッツダンス!」


 そして、俺のアイデアで踊りの練習に出れなかった2名と後から参加した1名を加えた3名がトランペットとギターを演奏しながら(音は鳴らないが……)、あとのメンバーがダンスを始めた。


 始めは見ていた客も途中から、各々、立ち上がってダンスを始め、ホールは盛り上がりを見せ始める。そこに、外番をしていたアカツキとユメノアルバも店内に入ってきた。


「いやー、エルさん。盛り上がってるね、大成功だ」

 興奮した様子でアカツキからの個人チャットが飛んでくる。

「良かったですね、アカツキさん」


「うんうん、楽器持たせたのも良かったね」

 

 そして、ダンスは予想以上の盛り上がりを見せた。


 そして、そのまま、楽器演奏に入ったが、これはイマイチ盛り上がらない。楽器を演奏する動作だけで、音が鳴る訳でもないのでちょっと厳しい状況であった。これは今後の改善という事でアカツキ、ユメノアルバ共、話し合う事になった。


 ただ、全体的には大盛況でグランドオープンは、大成功だったと言え、俺も責任から解放され、ほっとしていた。


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