第12話 グランドオープンへの準備

 アカツキがオーナーであるクラブハワイのグランドオープンまで2週間となっていた。メンバーは揃い、お店の内装も完成しているが、ダンスや接客の練習などは、まだまだ足りていない。


 組織的には、オーナーのアカツキがトップで、ナンバー2にはアカツキのチームメンバーでもあり、付き合いの長いユメノアルバがオーナー代理として、そして何故か俺が、ナンバー3として店長という事になっている。そしてその下に、この頃は班を2つに分けていたので、A班の班長かずのすけ、B班の班長勘太郎といった形になっていた。


 俺をナンバー3にした事は、アカツキにとって意味のある事であったようだが、この時点での俺はそれをまだ理解していない。ただ、みんなの前で指名された時は、正直嬉しかった。


 クラブハワイは種族マーフォークの都オトラントから船で行く離島にある高級リゾート地カレルンの丘にある。オトラントの都からゲームを始めるマーフォーク以外の種族は、ストーリーを進めて行くと初めて船に乗っていける場所だ。


 今、カレルンの丘のクラブハワイ前にある、海が一望出来る広場で、アカツキ、ユメノアルバ、そして俺で話し合いをしている。


「やっぱりダンスとかは全員集めてやらないと出来ないよ」

 と、ユメノアルバが話を切り出す。


「でも、時間を合わせるの大変じゃない? 2班で分けてやったら?」

 と、アカツキが言った。


 俺は、しばらく2人の会話を聞いているだけだった。特にユメノアルバの素性はまだ良く分からないので、今は様子を見ておいた方がいいだろう。リアルな仕事と同じで、俺はこういった人間関係には慎重で、始めは余り出しゃばらないようにしている。


「いや、全員でやらないと合わせられないと思うよ、タイミングとか」

 ユメノアルバはアカツキにどんどん意見を言っている。……きっと以前からこの2人の関係性はこうなのだろう。


「うん……、じゃあ取りあえず、都合聞いてみようか、全員に。それでいい? エルさん」

 俺は、突然アカツキから訊かれて内心焦ったが、いいですよ、と答えた。




 翌日の晩、同じ場所で、アカツキ、ユメノアルバ、そして俺の3人でまた話し合いが行われている。


「どうだった? アカツキさん」


「2人時間合わない人がいるんだよね。夜勤とかで」

 アカツキは、困っている様子だ。


「じゃあ、とりあえず9人でやろうか……」

 ユメノアルバが言った。


「2人はどうする?」


「――抜けてもらおうか。どうせ夜勤だと始まってからもこれないんじゃないの?」

 ユメノアルバのこの発言に、彼の性格が表れている。こういった攻撃的な人間には必要以上に意見を言わない方がいい。これは黙っておいて正解だったと、俺は思った。


「――いや、それはダメじゃない? 夜勤って言っても交代制みたいだから店始まったら出れるって言ってたし……」

 アカツキの返事を打つスピードが少し早い気がした。そこに何となく、彼の怒りを感じる。


 俺はユメノアルバのコメントを見て、今のユメノアルバの発言で、アカツキは怒っていると感じた。こういう時、もちろん顔の表情や言葉の強弱は、読み取れないのであくまでも推測だ。


 俺を誘った時も、アカツキは無理のない程度に時間見つけてやりましょうと誘っているから、おそらく他の人にも同じように言ってるはずだ。今さら、時間が合わないからやめてほしいなど言えるはずがない……。


 2人の様子がおかしくなりそうなので、俺は言葉を挿もうと決意した。

「しばらく違う事を、やってもらえばいいんじゃないですかね。ダンス以外でも接客とかやる事はあるし……。それで、ダンスは少しずつ覚えてもらえばいいんじゃないですか」


 言葉が強く感じないように注意して俺は発言する。どちらかにあからさまに味方しても要らない敵を作るだけだ。


「……まぁ、そうですね。違う事やるってのが、ペナルティにもなるしね。そうしましょうか。どうです? アカツキさん」


 おそらく、ユメノアルバもアカツキの怒りを感じたのだろう、俺の救いの手に乗ってきた。彼の抜けてもらおうか、と言った発言は冗談のつもりだったのかも知れない。


「うん、いいですね、そうしましょう。じゃあ9名で今週土日に特訓という事で、連絡しておきます」


「はい、お願いします」

 ユメノアルバの言葉も優しくなっている。……根は悪い奴じゃないのかも知れない。


 こういったMMOは少しの言葉の違いで誤解を招く、特に軽い冗談は相手が気づかない恐れがあり、注意が必要だ。リアルなら口や目の動き、手足の素振りで冗談を表すことができるが、この世界では不可能だ。俺のような慎重な人間でも、それで何度か失敗している。



 ……そしてダンスの特訓をする土日になった。


 GOCで使えるアクションをダンスっぽく見せる為に、コントローラのボタンを組み合わせて押していくのだが、みんなでタイミングを合わせて押さないと揃って見えないのでそれを何度も練習をした。

 同じ動作を全員でやっていても面白くないので、そこは色々とバリエーションを増やしていく。そこは事前に3人で考えた動きを俺がみんなに指示をした。

「A班かずさんとこは、○ボタンジャンプで△ボタン右横ダッシュ。B班勘太郎さんとこは、○ボタンジャンプで△ボタン左横ダッシュで交差してね。それで○ボタン長押しで大ジャンプ。OK?」

「了解」

「そこから、○△で斜めにジャンプ入れてACボタンね」

 ACボタンはアクションボタンで、この時は種族特有の動作が発動する。マーフォークの場合は竜巻のように回転しながら上にジャンプして、格好良く着地する。これを全員で合わせて着地出来た時は壮観だ。




 接客中に、盛り上げる為の掛け声なども、みんなで掛け声の文章を考えながら、叫ぶ係、隣で動作で盛り上げる係などを決めて練習をした。みんな、現実のクラブに行った経験などほとんどないので、映画やドラマなどの見よう見真似だ。メンバーの中には、なかなかの高齢なおじさんもいる(と思われる)ので、聞いたこともないニュアンスが出て来て、その都度笑いが起き、メンバー間の世代もなんとなく分かったきた。


 土曜日は結局、夜22時から始めて朝4時までやっていた。朝の新聞配達をしている竹ヤンさんの出勤の合図で終了となった。日曜日はさすがに、ほとんどの人が翌日仕事の為、24時で終わった。


 そして、ホールの中の全体の進行役は、ユメノアルバと俺が交代でやることになった。



 いよいよ、準備は完了だ。後は、グランドオープンを待つだけになった……。









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