第11話 スマホの専用アプリの実装!

 いよいよ、明日だ……。

 僕は高揚した気持ちを抑えられずにいる。明日は金曜日、世間は平日だ。普段なら、夜に帰宅してからGOCを少し遊んだら終わってしまう日だ。

 

 ところが、狙った訳ではないが、先々週の土曜日に休日出勤したので、偶然明日は代休として会社を休む事が出来る。これは会社の規定にしっかりと書いてあることなのでやむを得ない事だ。嫁も文句は言わないだろう。


 そう言う訳で、明日の『ゲーム・オブ・クリスタル』のアップデート日に会社を休む事が出来る。そして、かわいい俺の息子佑太は幼稚園で家にはいない。

 ただし、日にちが変わる0時から10時まではバージョン023のメンテナンスに時間が掛かり、それが終わるとインストール可能となる。


 今回のアップデートの中でも、スマホの専用アプリ実装というのは、僕にとって画期的なアップデートである。今まで帰宅しなければ何もできなかったGOCが、電車での移動中とかにも出来る事があるのである。そして、もう一つ強力な新要素が追加される。

 それは、地図アプリと連動した現実の世界に武器や防具の欠片や、最近の情報で分かった事だが武器そのもののドロップがあり、それを探し出すことでゲーム内で使用できるという事であった。僕はそれを知った時に外回りの営業でよかった、とつくづくと思った。


 僕は、この為に先日の野山産業へのクレーム対応の日にスマホを新品に買い替えをした。色々キャンペーンやら長期使用ボーナスをくっ付けて安くなったとはいえ、ウン万円の出費である。古いスマホからのデータ移行も無事に終了して準備万端だ。


 明日の為に早く眠りにつきたいので、ハイボール350ミリリットル缶を一気に2本空けたが、それでも眠れそうにない。しょうがないので明日のメンテナンスが終わった10時からの『やることリスト』を自分なりに作ってみる。まず、スマホへのアプリのインストールに、ストーリー進めて強ボス開放して、……。僕は、鼻歌混じりにリストを作成していると、突然僕の背後に人の気配を感じた。

 僕は、恐る恐る後ろを振り返ると、

「ねぇ亮君、明日会社休みだよね」

 と、嫁が娘の楓を抱っこしながら話しかけてきた。

「うん、そうだよ」

 僕はメモを隠しながら、何食わぬ顔で返事をする。


「明日、IKEAに一緒について行ってくれないかな? 土日は、混んじゃうからっていつも行かないけど、平日なら良さそうだし……」


 嫁は僕に対して、一応様子を窺ってる感じになっているが、この展開は断れないパターンだ。ここで断ると明日は一切ゲームが出来なくなる恐れがある。っていうか、出来なくなる。

 IKEAのある三郷なら隣の市だし、車で行けばそんなに遠くはない。まぁ2時間あれば往復で、店内を一回りしてから昼食を食べても、昼過ぎには帰ってこれるだろう。


「朝一でもいい?」

 僕は、その後のゲームの件は触れずに訊いてみる。

「うん、いいよ。佑太を幼稚園に送って、そのまま行こうか」

 嫁が簡単に返事をしてくれて、僕は内心ほっとしている。

「うん、じゃあそうしよう」


 内心のガッカリした様子など、表面には絶対出せない。これはしょうがない、嫁との取引みたいなものだ、と自分に言い聞かせる。

 そうと決まったなら、こうしちゃいられない、さっさと寝よう、そう思ってハイボールの3本目を一気に空けて眠りについた。



 翌朝、起きるとすぐにパソコンを立ち上げてGOCを確認すると、メンテナンス中とアナウンスが出ている。パソコンをその状態のままにしてリビングに行くと、幼稚園に行く佑太の準備と、自分の外出の準備で嫁はバタバタしている。下の娘の楓は、この時まだ寝ている。


 僕は、自分の朝の外出の準備が終える頃に楓が起きたので抱っこをしながら離乳食の準備をする。こういうバタついている時に何もせずにぼーっとしてると、嫁を怒らすことになるのは今まで何度も経験済みだ。今日はなるべく機嫌を損ねない様にするのが、昼からの生活を豊かにさせる為には必須な行動だ。



 佑太を幼稚園に送り、そのまま埼玉県の三郷市にあるIKEAに車で向かう。今日は子供用の収納ボックスと佑太の勉強用の小さいデスクが欲しいと言っていた。


 朝の10時になり、IKEAの開店と同時に店内に入る。僕は、店内を回りながらGOCの専用アプリのインストールが終わっているかを確認しようとスマートホンをチラ見するが、まだ準備中になっている。良くある事で、メンテナンス時間は延長をしているが、今日は全く問題ない。むしろ今の状況は気分がいい。


 IKEAで、無事にお目当ての家具を揃えて嫁はご機嫌だ。そして、帰りの道中にあるマクドナルドでハンバーガーのセットを食べてから帰ることにした。

 

 家に着くと、予想通りメンテナンス時間は延長していたようだが、先ほど終わってるようだった。家に居て、メンテの延長でイライラしてただろうと考えると、嫁の買い物に付き合って正解だった。早速、アップデータファイルをインストールし、スマートホンには新しいGOCの専用アプリを入れた。


 夜になって、GOCの新ストーリーのラスボス『キラーガン』を倒すために、雪山を登っていると、くまごろうから個人チャットが飛んできた。


「どうも、エルさん」


「こないだは、ありがとね、くまさん」


「いえいえ、ところで、もう準備万端?」

 と、くまごろう。


「うん、今日会社休んで、昼からやってる」


「ははは、やるねー」


「ところでどうしたの? 強ボス退治に行く?」

 と、僕が尋ねると、

「いや、まだストーリー全然進めてないや」

 と、くまごろうが言った。


「そっか……」


「ところでさ。スマホの専用アプリ使って、アイテムを街中で拾うのを今度一緒に行こうよ。おっさん1人じゃ行きづらいじゃん。なんとなく……」

 と、くまごろうから誘われた。


「あー、いいっすよ。今度行きましょう」

 俺も、1人では行きづらいなと思っていたので、喜んで承諾した。


「よし! 今日はそれだけ。じゃあまた」


「はい、はいー」


 ――このアイテムゲットの仕組みは、スマートホンのアプリの地図上に長時間、割と広い範囲で赤く点滅しているものと、ある時間になると出現するが、10分程すると消えてしまう青く点滅するマークの2種類がある。青いマークで取れるアイテムは希少だが、その分良いアイテムが取れる可能性が高い。

 

 僕はこの機能の実装によって、今まで嫁の目を気にしながらコソコソやっていた家でのゲームプレイの他に、仕事で営業回りしている最中に近くにないか確認したり、休みの日にはくまさんと街中をブラブラしながら探したりと、アウトドアの部分でもそれなりに生活が充実するようになるのである。



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