第5話 マーフォークの都オトラントにて

 今、俺たちの種族マーフォークの都オトラントの海岸線を歩いている。土曜日限定で行われるちょっとしたイベントクエストの消化の為に、この都中を走り回ってNPC(自分やその他のプレイヤーが操作しないコンピューター上のキャラクターの事)から情報をかき集めなければならない。


 この海岸線は、毎週土曜日の夜になると、相方を探すナンパ師とナンパされたい人が集まってくる。比率的には女性キャラのナンパ師の方が多いくらいだ。


 マーフォークでレベルカンストのお洒落な恰好等した奴が歩いてたらそれこそ大変なことになる。……のは分かっていたが、今回のイベントのアイテムは防具を強化するのに大量に消化する『バリアスの粉』が大量に手に入るので、なにがなんでもクリアしておきたい。



 案の定、人混みに紛れて海岸線を歩いていると、

「超カッコいいお兄さん、相方どうですか? いい娘いますよ」

 と、地方の繁華街にいるぼったくりバーの呼び込み人のような誘い方をするドワーフの男が近づいてくる。こんなのにホイホイついて行ったらどんな事になるやら……。俺は、立ち止まりもせずに通り過ぎる。

 

「あのー、私、相方募集なんですけど、お話ししませんか?」

 最近流行の小悪魔衣装のフェアリーだ。確かに可愛いが俺は今興味が無い。


「あっごめんなさい今、イベントクエ中なんで……」

 スルーするのもかわいそうなので、一応立ち止まってお断りをする。そこはドワーフとフェアリーの違いだ。


 でも、これはいちいち対応してたら面倒だ。さっさとイベントをクリアしちゃおう、そう思ってダッシュモードで走り出そうとした時にあるチャットが目に入った。


「マーフォーク♂(男)だけのナイトクラブ作るので従業員募集!」


「ん? ナイトクラブとな」

 よく見ると、1人のマーフォークの男が海岸にある大きな石の上から全チャ(その周辺の人に見えるようにチャットを画面に出している)で叫んでいる。 

 

 へえー、そうか、そんな事も出来るんだな――俺は、瞬時に興味を持った。

 そして、ちょっと話だけでも聞いてみるか、そう思い募集しているマーフォークに近づいて行く。


「おっ、募集ですか?」

 俺に気付いたマーフォークの男は、気さくに声を掛けてきた。


「いや……、ちょっと面白そうだなと思って……、話しだけ聞いてもいいですか?」


「うん、いいですよ。どうぞ」

 中々爽やかな感じのする人だな。俺は直ぐに好感を持った。


「自分はアカツキと言います。よろしく♪」


「エルです。よろしくお願いします」


「ところで、何を訊きたいですか?」


「えっと、……ナイトクラブって、GOCやっていて初めて聞いたんですけど何をやるんですか?」


「毎週土曜日の夜にお客さんを集めてダンスとか演奏をやったり、ホストクラブのように女の子を盛りあげて喜んでもらえる疑似体験できる場所を作ろうと思いましてね」


「へえー、でもダンスって?」


「うん、ボタン操作でいろいろなアクション組み合わせればそれっぽくなるでしょ」


「あー、なるほど」


「演奏ってどうやってやるんですか?」

 俺は、矢継ぎ早に質問をする。


「最近のアップデで、木家具職人の所で楽器作れるようになったでしょ?」

 あーそう言えばそんなアップデあったな、俺には全く興味の無い事だったので忘れていた。

「それで、作った楽器でアクションボタン押すと楽器の演奏するんですよ」


「へぇー、それはすごいですね」


「さすがに音は出せませんので、見た目だけですけどね」


「なるほど」

 俺は、アカツキの次から次へと出てくるアイデアに感心していた。


 ――確かにこのGOCはアクションが豊富だ。例えば○ボタンはジャンプであるが、長押しする等の押し方によって大ジャンプや、ピョンピョン跳ねるなど使い分けができる。△ボタンは矢印ボタンと合わせることによりその方向にダッシュ、□ボタンは手の上げ下げ、長押しで屈伸、×ボタンは後ろを振り向く、長押しによって回転する。ボタンの組み合わせでも○△で斜めにジャンプなども可能になる。

 そして、コントローラ中央にあるACボタンで、特殊なアクションも出来るようになっている。


「それで……僕の家を改装してクラブっぽくしてあるので、そこに人を集めてやろうかと……、あっそうだ! 今から見に来ますか?」


「あっ! ぜひ」

 俺はすっかりイベントの事を忘れ、アカツキの話に夢中になっていた。


「うん、じゃあパーティーに誘いますね」


「はい、お願いします」



 そうして俺は、アカツキの作ったクラブハワイを見る為に、カレルンの丘に飛んだ。

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