第4話 めんどくさっ!

 強ボスクラーケンキング――8本の足を持つ海の怪物で、有毒な墨を一定の間隔で吐き出す。それを食らってしまうと大ダメ―ジとなってしまうので、それを避けながらの攻撃が必要であり、逆に攻撃担当のアタッカーがこの墨を避けれないようだと話にならない。口(性格)が悪いプレイヤーがパーティにいると、それを食らった時点で、「足手まといだから退出してくれ」などと本当に心に大ダメージを受けてしまう一言を言われてしまうこともある。

 後は小さいダメージをちょくちょく受けるのだが普通はそれは避けずに回復担当に任せて敵にダメージを与えることを優先するのがアタッカーの役割だ。


 そして、チームリーダーのハヤブサキッドが回復薬の薬師、副リーダーのミズキが離れた所から攻撃をする魔術師、風の又三郎は最前線で壁役の騎士、ケロケロケロッピがサブのアタッカーで効果は弱いが一応回復も少し出来る武士といった5人パーティーでの戦闘が始まった。


 俺は忍者で、ひたすら近接攻撃ダメージを与えるのが役割だ。ただ装備は忍者服で防御力は本当に布程度なので墨を受けると一度で死んでしまう。

 その為忍者というのは、より技量が試される職業だ。……ただ使いこなせた場合はこれはかなりカッコいい。それがモテ枠のマーフォークなら尚更だ。


 序盤、俺は開始前に飲んだハイボールの酔いも回りだして鼻歌交じりで絶好調だ。攻撃もバシバシ決まって気分がいい。


 これは今日中に忍者の新武器『佐助の小刀』出来ちゃうかも……、などと考え初めてた矢先、


 あれ? 死んでしまった……。


「すいませーん」

 一応謝っておこう。

「ドンマイ」

 ケロケロケロッピだ。


 酔いが回ったかな……。そしてケロケロケロッピに生き返りの薬『バイグラの葉』で回復してもらう。

 いかん、いかん、集中、集中。


 ん……? 全然回復していない……。小さいダメージを受けて体力が減っているのだが、回復が追いついていない……。


 ハヤブサキッド寝落ち?(ゲームをしながら寝てしまう事)


 そして、また死んでしまった……。


「www」

 ミズキだ。これは笑ってるマークであるが、中の人は笑っていない……。何やってんだコイツって、感じだろう。長い事やってるとこの感覚は分かってくる。


 よく見ると、ハヤブサキッドは俺以外のキャラにはきっちり回復の薬を投げて回復させているのが分かる。


(どうしたんだ? キッド。なぜ俺に回復薬を投げない……)


 しかし、ここで俺がそれをハヤブサキッドに言うと、どんな言い方をしてもギクシャクしてしまうのは目に見えている。


 俺は憤りを感じながらも、この日は小さいダメージも避けながらのプレイを強いられた。それでも死んだ回数は今まで経験したことのない数だった。


「みなさん、バイグラたくさん使わせてすいませんでした!」

 と、謝りながらも、俺の酔いは一気に冷めていた……。

 

「じゃあ、解散しますね。きょうはおつでしたー」

 ミズキがそう言って、パーティは解散した。結局なんとか倒せたのは1回だけだった。


 解散してすぐに風の又三郎から個人チャットが飛んできた。

「お疲れ様、エルさん」


「おつかれでした、すいませんでした。ヘタッピで」


「いやいや、リーダーから回復いってなかったね」


「……うん」


「キッドさんとミズキさんは相方なんですよ」


「あっそうなんですね」


「多分、あれはヤキモチですね、キッドさんの」


「あっ……なるほど」

 俺は心当りがあった。(第3話参照)


「あと、キッドさんとケロッピさんは本当の兄弟で……」


「そうでしたかー」


「まぁ、だからあんまり気にしないで、楽しみましょう。では」


「ありがとうございました」



 結局、この日はモヤモヤした気持ちのまま眠りについた。



 後日、また例の個人チャットが飛んできた。

「こんばんはー。エルピョン、今ヒマ?」


 正直こないだの事があるので全く気が乗らない。俺は、意識的に返事を遅らせてみた。すると……、

「ちょっと相談があるんだけど……、すぐ終わるから」

 と、続けざまにチャットが飛んでくる。


 俺は、イヤイヤだが返事をした。

「はい、なんでしょ」


「やったー、エルピョンが返事してくれたー。ちょっとチームアジトまで来れる?」

 言い方があざといな、と思いながら、

「うん、今行きますね」

 と、言ってアジトに飛んだ。


 ――このGOCはチームリーダーになると自分の家の他にチームアジトを持つことが出来る。このチームアジトにはチームのメンバーになると、アジトというコマンドを選択するだけで瞬時に飛んで行けるようになっている。


 チームアスナロのアジトは天空の町『ラポラス』にあった。なんとなく雰囲気は、あの(天空の〇ラ〇〇タ)イメージ……で、俺は嫌いではない。

 

 到着すると今日はミズキが1人だった。

「お待たせ。何でした? ……今日はこの後、違うフレと用事があるので……」 

 と、変な事に巻き込まれない様に、先に予防線を張っておく。


「あっごめんね、エルピョン」

 と、言いながら妙に体を俺に近づけて来る。少し気になったが、逃げるのも変なのでそのままにしておく。


「あのー、うちのダーリンがさ」


「ダーリン?」

 この瞬間、酔っ払った32歳のおっさん(中の人)の思考は停止した。今時、ダーリンって……。


「あっキッドさんね、誰かに聞いたでしょ。相方だって」


「あっはいはい」

 ミズキがやけに深刻な雰囲気なので、逆に俺は軽い感じで返事をした。

「また、こないだチームに入れた娘と浮気してんだよね」

「……」


 『僕』は席を立ち、PCから離れて2本目のハイボールを冷蔵庫に取りに行く。

 その間も、ハヤブサキッドの浮気に対するミズキのチャットは続いている。

 俺は、はい、へー、それはキツイッすね。の言葉を適当に続けながらハイボールを飲んでいると、ハヤブサキッドがアジトに飛んできた……。


 俺は一瞬焦ったが、すぐにこれはミズキの策略だと気付いた。


(そうか、こういう場面をキッドに見せる事でミズキは……)


(――めんどくさっ!)


 俺はその時、何も言わずに「カレルン」と唱え、適当な場所に飛んだ。



 そしてその晩、落ちる(ゲームをオフする)前に、俺はチームアスナロを黙って抜けた。






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