第2話 プロローグ 後編

 さて、前回は僕のアバターであるエル・スタークの話をした。しかし、これからしばらく続くこの物語では、実は中の人(プレイしている人)である森嶋亮介自身も活躍!?する時がくるのである。


 ……というわけで、今回は『僕』自身の説明をする。

 僕は32歳の既婚で2児の父親。まあまあ世間で認知されている上場企業で機械メーカーの『村井機械』で営業をしている普通のサラリーマンである。2年前に埼玉県の草加市に30年ローンで一軒家を購入して、今はそこから会社のある品川区の大崎駅まで通勤している。

 そして、外見は身長168cmで、見た目は中肉中背だが普通におっさん。ただ、若い時には一度だけ、街を歩いている時に見知らぬ女の子2人に写真を撮られ、それが有名な女子向けの雑誌に載ったことがあるっていうのが、仲間内で酔っぱらった時の自慢話になっている。


 身長が平均より低いコンプレックスがあり、その為にこのゲームを始めた時は身長の高い種族を選ぼうと決めていた。身長の高い種族は魚族のマーフォークと鬼族のデーモンがあったのだが、太マッチョより細マッチョが良くてマーフォークに決めた。それが、たまたまこのゲームにおけるイケメン枠の種族だったわけだ。


 もちろんゲーム内では『僕』の事は一切しゃべってはいない。あくまでもイケメンを演じている。……みんなの『俺』への妄想を裏切ってはいけない。


 このゲームを始めて3年、毎朝満員の通勤電車に乗って会社に向かうまでの時間に、スマホでGOCの攻略サイトを読みながら、イベントのチェック等をしてその日の晩に何をするかを考える。


 そして、仕事が終わり、家に帰って寝るまでの準備を整えると、4畳程の自分の部屋にハイボールの350ミリリットル缶2本と柿の種1袋を持ち込み、座り心地にこだわった量販店で買ったソファーに座る。

 パソコンの電源を入れると、立ち上がるまでの間にハイボールを一気に3分の1程流し込む。そこでゲームを選択してゲームコントローラでスタートボタンを押す。家に帰ってからの、このルーティンの中で、僕はこのボタンを押した瞬間にエル・スタークに切り替わるのだ。

 ただ、……ついでに言っておくと嫁は、僕がゲームをすることに対して良い顔はしていない、むしろ嫌っている。が、その厳しい視線にも3年という歳月が僕を慣れさせていた。


 僕も少し前までは夏はシュノーケリング(要は素潜り)、冬はスノボーをする、どちらかと言えばスポーツマンだった。嫁はもちろんその時期の僕に惚れて結婚している。

 ところが、子供が出来て小遣いも少なくなってくると、金銭的にとても外に出て遊んでいる余裕はない。

 その点、この『ゲーム・オブ・クリスタル』通称GOCは通常ゲームだけなら、1か月1500円、3カ月だと4000円の財布に優しい料金設定となっている。まあ課金オプションや課金アイテムに手を出し始めると、誘惑との戦いになるのはどのゲームも同じであるが……、しかし、GOCではあまり強さに直結する事は少なく、課金要素はそれ程高くはない。

 ……だから、インドアになってしまうのもしょうがないというのが僕の主張だ。が、嫁には今の所届いていない……。


 たまに仕事をさぼって、個室でMMORPGが出来る漫画喫茶に行く事があるが、そこは唯一嫁の視線を気にせずにゲームが出来る今の僕にとって至福の場所だ。ただ、さすがに頻繁には行けないので、月1回くらいは行けるように普段の仕事を頑張っている。



 我が家には長男の佑太と生まれたばかりの女の子楓がいる。最近、佑太は3歳になって遊びたい盛りだ。僕も父親として、休みの日は公園に連れて行ったりする事は当然している。ただ、夜になり佑太が寝静まる頃にゲームを始めたいのだが、僕がいる休日はなかなか寝付かずに、僕の部屋に遅くまでいる。

 GOCに限らずMMORPGは休日の夜というのはイベントも盛りだくさんだ。嫁に助けを求めても知らん顔で、ゲームをやらせたくない彼女は、わざと佑太を僕の部屋にいさせているようにも思える。


 しかし、ある日僕は思い付いた。線を繋げていない有線のコントローラを佑太に持たせた状態でGOCを始めてみたのだ。予想した通り佑太は、僕が動かしているコントローラの動きを真似して大喜びだ。自分でアバターを動かしている気になっているようだ。さすがに強ボスを退治するようなコンテンツは出来ないが、街中やフィールドの移動や発掘者になって金物の発掘が出来るので満足だった。ただ、これもしばらくしてから、嫁にバレて大目玉を食らうのだが……。


 

 このように『僕』は、リアル世界では、苦労しながらも時間を見つけてGOCを楽しんでいるのである。



 

 そして、『俺』は、このゲームの中では最大規模のナイトクラブ サントリーニのオーナー兼ナンバーワンホストとして現在、夜の街に君臨しているわけだ。


 さて……、ではこれから、ここまでの俺のこのGOCでの成功譚を語っていこうと思う。


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