《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第31話 不死身の蛇の殺し方

 全身を炎に包まれ、エドナが地面に崩れ落ちる。それを確認すると、クーナはロビンの方を振り返った。


「ロビンさん、終わったよ!」

「お、おう……」


 少女とは思えぬあまりにパワフルな攻撃手段に、ロビンは思わず引きつった笑みを返す。魔法を拳に宿し、直接相手に叩き付ける。ロビンからしてみれば、あまりにも常識外れなやり方だった。


(異世界ハンパねえ……俺今の世界に生まれて良かった……)


 クーナのような少女がこんな戦い方をする異世界とやらは一体どんな場所なんだ……と考えて、ロビンはすぐにそれ以上の思考を打ち切った。考えたところで、ただドツボに嵌まるだけのような気がした。


「さ、すぐにトキさんを追いかけよう! 一人じゃ心配だもん!」

「ああ……!?」


 移動を促すクーナに頷きかけた、ロビンの表情がしかし、一瞬にして固まる。クーナの背後で蠢くものを、視界に入れたが故に。


「クーナ、まだだ!」

「っ!?」

「熱い……痛い痛い痛い熱い……」


 むくり、と。後ろを振り返ったクーナの目の前で、火だるまになったエドナが立ち上がる。

 炎に焼かれ、火傷だらけになった皮膚がずるりと剥ける。古い皮膚が炎と共に剥がれ落ち、中から傷一つない白い肌が現れた。


「クソッ! 少しだけ、そんな予感はしてたがよ……!」

「よくも……よくもボクをまた焼いてくれたな……」


 怒り、憎しみ、あらゆる負の感情が混ざり合った狂気の光。それを宿し、エドナは二人を睨み付ける。


「もう怒った! もうブチ切れた! 今すぐ二人まとめて殺してやる!」


 そう叫び、エドナが自分の総ての髪をに向けて放つ。しかし、それに対するクーナの反応も早かった。


「ロビンさん、私の側に! 『火柱よ、我が身を守る壁となれ』!」


 クーナがすぐに、自分とロビンを取り囲むように炎の壁を展開させる。これにより髪の毛は二人に届くより前に焼け落ちたが、代わりに二人が身動きを取る事も出来なくなった。


「ふん! そんな大がかりな壁、いつまでも魔力がもつわけないもんね!」


 それでもエドナは、そう言って攻撃の手を緩めない。そしてその言葉通り、クーナの表情は徐々に険しいものになっていった。


「くっ……あの子の言う通りだよ、いつまでもこのままじゃいられない……!」

「チッ、せめてアイツの弱点でも解りゃあ……!」


 歯噛みしながら、ロビンは思考を巡らす。以前倒したあの時、エドナは丸焼きにされ、黒い手に貪り尽くされてもすぐには死ななかった。

 エドナに引導を渡したいなら、あの時やらなかった何か・・をやるしかない。誰かを殺す手段でなおかつ、あの時やらなかった事――。


(――首を、切り落とす?)


 不意にロビンの脳裏に、その可能性が浮かんだ。銃士である自分は標的を撃ち抜く事は出来ても、切る事は出来なかった。

 しかし今ここに、首を切断する為の道具はない。マルクかサーク、そのどちらかでもいてくれれば良かったのだが。


「あー……ならせめてアイツを氷漬けに出来りゃ、頭を砕けるのによ!」

「……あの子を氷漬けにしたいの?」


 煮詰まって声になってしまった思考に、クーナが反応する。ロビンはしまったと思いながらも、大人しくクーナに自分の考えを伝えた。


「……ああ。頭を砕いてやれば、流石のアイツも死ぬかと思ってな」

「それなら、私、出来るよ?」

「え?」


 クーナの返事に、ロビンは思わず目を見張る。今まで火の魔法しか使わなかったので、クーナはそれしか使えないと思い込んでいたのだ。


「出来るのか!?」

「うん。炎ほど得意じゃないけどね」


 その事実を知り、ロビンの顔に笑みが浮かぶ。ならば、まだ、手は尽くせる!

 見えてきた勝算を胸に、ロビンは言った。


「クーナ、その話もっと詳しく聞かせてくれ。出来れば手短に!」

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