《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第30話 絡み合う毒牙と炎

「『出でよ数多あまたの火球、その熱で総てを焼き払え』!」


 クーナがいくつもの火球を生み出し、エドナに向けて放つ。火球はエドナの髪を次々に焼き払い、攻撃の手を奪っていく。


(スゲェな、異世界の魔法。マジで魔女並じゃねえか)


 その戦いぶりに、ロビンは思わず舌を巻く。クーナの生み出した火球は一発一発が紅玉ルビー級。エドナが顔色を変えたのも、無理のない事だと思える。

 だが、と。同時にロビンは思う。


(このままじゃ多分、完全には押し切れねえ。そもそもアイツらおっそろしく頑丈だから、丸焼きに出来たとしても大人しく死ぬかどうか……)


 一度戦い生き残ったからこそ、ロビンはエドナの恐ろしさをよく熟知している。あの時ロビンは、魔女アウロラの助けがあってなお死ぬ一歩手前まで追い詰められたのだ。


(もう二度と、戦り合う事はないと思ってたんだがな……!)


 ここまで来れば、いかに楽観的なロビンであろうとこれがただの夢ではない事に気付いていた。自分の前に現れたトキが、正真正銘の本物である事も。

 ここでの死は、現実の死に繋がる。今更になって、トキのその言葉がロビンの脳裏をグルグルと駆け巡る。


「あーもう、この炎鬱陶しい!」


 切り離しても切り離しても燃やされる髪に業を煮やしたのか、遂にエドナがそう叫んで大量の髪を周囲に展開させた。それにより、クーナが操る炎が一気に叩き落とされる。


「そんな!」

「チイッ! 装填・〈紅玉ルビー〉!」


 ロビンは即座に炎の弾を放って向かってくる髪を焼き、僅かに空いたスペースにクーナと自分の体を押し込んだ。それでも避けきれなかった髪が、二人の肌と肉を裂いていく。


「ぐっ……ありがとう、ロビンさん……!」

「あの髪はいくら燃やしても意味がねえ! 何とか本体にダメージを与えねえと……」

「本体に……」


 ロビンの言葉にクーナはエドナを見据え、何事か考える素振りを見せた。しかしすぐに顔を上げると、バッとロビンの方を振り返る。


「ロビンさん、援護をお願い!」

「あっ、おい!」


 言うが早いが、クーナはエドナに向けて駆け出していってしまった。そんなクーナに、エドナは嘲るような笑みを向ける。


「自分から切られに来てくれるなんてバカみた~い♡ まずはアンタから死んじゃえ!」


 エドナの髪が、一斉にクーナへと向けられる。それに対し、クーナは小手を嵌めた右腕を胸の前にかざし、こう叫んだ。


「『紅きほむら、我が腕に宿りて、災いを退ける盾となれ』!」


 するとクーナの右腕を中心に、大きな炎の盾が展開される。盾はクーナに向かった髪の多くを焼き払い、勢いを失わせていった。


「なっ!?」

「おっと、逃がさないぜ。装填・〈蒼玉サファイア〉!」


 慌てて距離を取ろうとするエドナだったが、その脚に、ロビンの放った氷の魔法が着弾する。それはエドナの動きを僅かに封じたにすぎなかったが、その僅かな隙さえあればクーナには十分であった。


「『燃え盛れ地獄の炎、我がかいなに宿り、総てのものを灰塵かいじんに帰せ』!」


 重ねられた詠唱に、クーナの右腕の炎が凝縮され巨大な炎と化す。クーナはその燃え盛る右腕を大きく振りかぶり――。


「いっけえええええ! 『炎の拳ブレイズ・ナックル』!!」


 突き出された拳はエドナの胴を穿ち、その全身を燃え広がらせた。

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