《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第15話 いつか出会った相手

「……さて」


 ティオとの再会の抱擁を済ませた後。トキは、ティオと一緒にいた少女に向き直った。


「テメェ、誰だ。うちのガキを連れ回して何してやがった」

「止めろよ、トキ!」


 するとティオが、トキと少女の間に割り込む。そんなティオに、トキは厳しい視線を向ける。


退いてろ、ティオ」

「やだ! クーナはここまでずっと、俺を守ってくれたんだ! 悪い人なんかじゃないよ!」

「そんなの、何かに利用する為かもしれねえだろ」

「待って……あなた、トキさん!?」


 その時突然少女が上げた声に、トキは眉根を寄せる。戸惑うトキを余所に、少女はなおも続けた。


「私! クーナだよ! 前に霧の中で一緒の小屋に泊まった!」

「あ?」


 言われてトキは、過去の記憶を探ってみる。……そういえば昔、セシリアと妙な霧の中で一夜を明かした事があったような気がする。

 だがその時一緒だったのがこの少女だったかと言われれば、解らない。何せ五年も前の事だし、あの頃の自分は、他人に対する興味が今より希薄だったからだ。


「……知らねえな、アンタの事なんて」

「嘘! 覚えてないって言うの? そうだ姉様は、セシリア姉様はどこ!?」

「待て、お前、セシリアを知っているのか!?」


 少女の口からセシリアの名が出てきた事で、マルクが身を乗り出し、会話に割り込んできた。それに少女は、大きく頷き返す。


「勿論! 姉様とは一度会ったきりだし血の繋がりはないけど、大切な姉様だもん!」

「なぁ、セシリアの事知ってるしお前の事も知ってるみたいだし、マジで会った事ある奴なんじゃないか?」


 更にロビンまでもが少女を擁護するような事を言い出し、トキの心は更にささくれ立つ。今は、こんな訳の解らない女の相手をしている暇などないと言うのに。


「ねえ、姉様はどこ!? まさか置いていったんじゃないでしょうね!」

「そうだトキ、セシリアはどこ!? アデルとステラは!?」

「……ああクソ、お前らいっぺん黙りやがれ! 今纏めて説明してやる!」


 二人の勢いに流されるようにして、思わずトキはそう叫んでいた。



「……つまりここは夢の世界で、トキさんはティオや姉様を探しにここまで来た……って事?」

「ああ、そうだ。……クソ、ティオはともかく何でテメェにまでこんな事を……」


 トキの説明が終わると、少女――クーナは何かを考えるように俯いた。かと思うと、すぐにバッと顔を上げる。


「トキさん、私にも姉様を探すのを手伝わせて! 姉様が危ないなら、私、放って置けない!」

「……あ?」


 クーナの申し出に、トキの顔が嫌そうに歪む。そんなトキなど知らないとばかりに、ティオが歓声を上げた。


「それがいいよ! トキ、クーナってメチャクチャ強いんだよ! 沢山のでっかい蛇をスゲェ炎で燃やしちゃうんだ!」

「あっ、ティオ、それは……」


 得意げに語るティオにクーナは何故か慌てるが、既に遅し。ロビンとマルクは、感心したようにそれを聞いていた。


「へー、そんなに強いのか……ならついてきて貰った方が心強いんじゃねえの?」

「同感だな。少なくとも、口ばかりで何もしていない貴様よりは役立つんじゃないか、ドブネズミ」

「んだとコラ……! いいか、お前らが何と言おうと俺は……!」


 トキの意に反し、周囲の意見はどんどんクーナを連れて行く方向で固まっていく。トキはあくまでも、それに異を唱えようとするが――。


「うん、一緒に行こう、クーナ! 俺、クーナともっと一緒にいたい!」

「……っ」


 そう、眩しい笑顔のティオに言われてしまえば。隠れ親馬鹿のトキに、それ以上の反論など出来ないのであった。

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