《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第10話 幼い憧れ

「なぁ、ところでさ、さっきの何?」


 先を行くクーナの半歩後ろを歩きながら、ティオはふと疑問を口にした。


「さっきのって?」

「ほら、でっかい蛇をボワッて燃やした奴!」


 ティオの問いに、クーナは振り返り首を傾げたが。続けられた言葉に、合点がいったように手を打った。


「ああ、魔法の事?」

「えっ!? あれが魔法!?」


 クーナが答えた途端、ティオの目は好奇心いっぱいにキラキラと輝いた。魔法。それはティオにとって、未知の存在。

 ティオがまだ今より幼い頃。魔法は確かに、この世に在ったという。

 しかしティオが物心つくより前に、魔法はこの世から突然姿を消した。同時期に起きた古の王族の城、カルラディア城の崩壊と関係があると噂する者もいるが、真相は未だ定かではない。

 とにかく、そういう訳で、ティオは魔法というものを知識としては知っているが、実際に見た事は一度もない。故に、自分が初めて魔法を目にしたという事実に、興奮を覚えたのである。


「ねえねえ、魔法ってどうやって使うの!? 俺も魔法使いたい!」

「えっ!?」


 ティオの素直な懇願に、クーナは困惑の表情を浮かべる。それに構わず、ティオは更に畳みかけた。


「俺、魔法って生まれてから一度も見た事ないんだ! だからもっと魔法見たい! そんで使えるようになりたい!」

「え、えっと……」


 クーナはすっかり困り顔になって、視線を右往左往させている。何故彼女がこんなにも動揺しているのか、ティオには解らなかったし気付きもしなかった。


「……魔法を見た事ないって事は、私、また・・、異世界に来ちゃった……? あああどうしよう……! 何て言って誤魔化そう……!」

「……?」


 ブツブツと、早口かつ小さな声で何かを捲し立てるクーナ。そんなクーナをティオは不思議そうに見ていたが、クーナはやがて何かに気付いたようにティオをまじまじと見た。


「……ティオ」

「ん?」

「ごめんね。魔法を見せるのはいくらでもしてあげられるけど、魔法を使えるようには出来ないよ」

「えー!? 何でー!?」


 クーナの口から出た断りの言葉に、ティオは不満げに唇を尖らせる。けれどクーナは、申し訳無さそうに眉を下げてこう続けた。


「だって、ティオには魔力がない・・・・・から」

「え?」


 聞き慣れない言葉に、ティオはキョトンとする。魔力。そういえば一度、酒場のシェリーが言っていた気がする。


 「自分の魔力は、何で突然消えてしまったんだろう」――と。


「魔力っていうのがないと、魔法は使えないの?」

「うん。残念だけど」


 すげなくそう断言されて、ティオはガックリと肩を落とす。残念だったが、言い切られてしまっては仕方が無い。


「じゃあ、魔法もっと見せて! 俺、もっと魔法見たい!」

「うーん……ちょっとだけだよ? あと、皆には内緒ね?」

「解った! 絶対言わない!」


 気を取り直し、今度はそう頼むと、苦笑しながらだがクーナは了承してくれた。喜ぶティオの前で、クーナは年代物だが美しい模様が刻まれた小手を付けた右手を前に出し――直後に、その手でティオを慌てて抱きかかえた。


「えっ!? えっ!!?」

「蛇に囲まれてる! 強行突破するから、舌噛まないようにね!」

「なんっ……うひゃああああああああああっ!?」


 ティオが何かを言おうとするよりも早く。

 クーナはティオを抱えたまま、全力で駆け出していた。

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