《ゆりせんせいは猫耳サイテー勇者を教育します!×星空の小夜曲》第18話 あなたと一緒だから意味があるの
強い耳鳴りが、私の耳を支配する。辺りの様子を見たくても、体に上手く力が入らない。
今の爆発は何? 私、一体どうなったの?
「……! ……、……!」
誰かが何かを言っている。声が遠すぎて内容は聞き取れないけど、それだけは解る。
私の手に、誰かの手が触れた。長い指、大きな掌。私は誘われるように、その手を握り返す。
「……ナ! ……クー……」
少し声が近くなった。と同時に、私は何かの下から引っ張り出される。自分に何かが覆い被さっていた事に、その時になって私は初めて気が付いた。
「……クーナ! しっかりしろ!」
視界が開けたと共に、漸く声がハッキリと聞こえるようになった。私を見下ろすのは、必死な表情を浮かべるサークの顔。私はまだどこかぼやけたままの頭で、緩慢に口を開く。
「……サーク……何があったの……?」
「俺達が倒したガーゴイルが自爆した。ナオトの奴が事前に気付いて俺達を床に伏せさせなきゃ、今頃は全員爆発に飲まれてた……」
「え……? そ、そうだ! ナオト!」
そこで私は、やっと総てを思い出した。そうだ、獣になったナオトが私達を庇って……!
まだ少し揺れている頭を押さえながら、急いで身を起こす。さっきまで私がいた方を振り返ると、そこには背中の皮が焼け爛れ、獣と化したまま無惨な状態で倒れているナオトの姿があった。
「ナオト!」
「駄目だ、動かすな!」
急いでナオトに駆け寄ろうとした私を、サークが肩を掴んで止める。……確かに私に出来る事はない、けど……!
「いいか、落ち着け、クーナ」
「落ち着けないよ、こんなの! だって……!」
「取り乱してナオトが助かるなら、俺だってそうしてる! ……今は、今だからこそ、俺達は冷静にならないといけない。解るな?」
「……っ」
焦る私に、静かに諭すサーク。……サークの言う通りだ。ただ慌てたって、ナオトが助かる訳じゃない……。
私が本当に落ち着いたのが解ったんだろう。サークは私の肩から手を離すと、再び話し始めた。
「よし。クーナ、お前、街を出る時に、ゆりに怪我を治して貰ったって言ってたな」
「う、うん……でも、あれは軽い怪我で……」
「それでも、今この状況をどうにか出来るとしたら、きっとゆりだけだ。お前は下に行って、すぐにゆりを呼んできてくれ。俺はその間に、可能な限りの応急処置を施す」
「……解った! 私、すぐに、ゆりさんを連れて戻ってくるよ!」
「ああ、頼む」
軽く頭を振って、私は立ち上がる。まだ頭は少しクラクラするけど、そんなの構ってられない。
私達のせいで、ナオトを死なせたりなんかしない。――絶対に助ける!
そう強く決意して、私は、今上ってきた階段を駆け降り始めた。
「ナオト……!」
床に横たわったまま浅い呼吸を繰り返すナオトを見て、青白かったゆりさんの顔が更に青くなる。それを見て、私の胸がずきりと痛んだ。
私が上であった事をゆりさんに伝えると、ゆりさんは青くなりながらも気丈にここまでついてきた。この間まで普通に暮らしてた人なら、現実を受け入れられずに取り乱してもおかしくはないのに。
それはただ芯が強いのとは、どこか違う気がして。……ゆりさんの歩んできた道も、決して平坦なんかじゃなかったって私に思わせた。
「来たか、ゆり」
「サークさん……ナオトの様子は」
「手持ちの薬で応急処置はしたが、火傷の範囲が広い。早急に治療が必要だ」
ここまで急いで駆け上がってきたからか、フラフラとした、けれど確かな足取りでゆりさんがナオトに近付く。そしてサークと入れ替わるように、その傍らに座り込んだ。
「……ナオト」
ゆりさんの手が、ナオトの頭を優しく包む。閉じられていたナオトの瞳が、うっすらと開いた気がした。
「私があの世界へ帰りたいのは、あそこが私とナオトの生きる場所だから。これからの人生を、一緒に作っていく場所だから。私一人で帰っても意味がない。あなたと一緒に帰るからこそ、意味があるの。だから……」
――これからも、私と一緒に生きて。
そう言うと、ゆりさんはナオトに口付けた。その瞬間、魔力を感じ取る力の弱い私にもハッキリと見えるほどの魔力の奔流が二人を包み込む。
「スゲェ……これが、ゆりの魔力……」
サークが呟く中、二人の舌と舌が絡み合い、それと共にナオトの傷も急速に癒えていく。気が付くと、ナオトはいつの間にか人の姿に戻っていた。
「……ゆり」
刹那、唇が離れて、ナオトがゆりさんの名前を呼ぶ。そして、ゆりさんを強く抱き締め、今度は自分から深く口付けた。
「……っふ……」
ゆりさんの頬が、淡く色付いていく。魔力の奔流は徐々に治まっていき、後には貪るように口付けを交わし合う二人だけが残った。
「ゆり……ゆり……」
「……ナオト……っん」
離れてはまた角度を変えて触れ合う唇から、零れる唾液。うん……ナオトが助かって本当に良かったし、二人仲が良いのは凄くいい事なんだけど……。
「……ねえ、サーク」
「何」
「これ……いつまで続くのかな」
「……アイツらが俺達の存在を思い出すまで、じゃね?」
その、とびきり濃厚なキスシーンは、それから暫く続いたのだった……。
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