《ゆりせんせいは猫耳サイテー勇者を教育します!×星空の小夜曲》第11話 私は、私達の世界に帰りたい
「……ん……」
意識が急浮上し、ゆっくりとゆりは目を開ける。まず真っ先に目に入ったのは、自宅のものとは異なる天井だった。
「あれ……私……」
「ゆり! 気が付いた!?」
掠れた声でゆりが呟くと、突然視界に顔が飛び込んでくる。心配そうにゆりを見つめるそれは、紛れもなくナオトのものだった。
「ナオト……私、どうしたの……?」
「突然倒れちゃったんだよ、ゆりさん」
問いかけたゆりにひょっこり顔を出して答えたのは、長い黒髪の少女だ。彼女――クーナを見て、ゆりは思い出す。自分とナオトが、違う世界に迷い込んでしまった事を。
「ここは?」
「街の宿屋。ナオトが街を見つけてくれたの」
「ナオトが?」
クーナの言葉に、ゆりはナオトを見る。するとナオトは、得意げに鼻を鳴らした。
「ま、オレは何でも出来る男だから! これくらい軽いっつーか!」
「そう……偉かったね。ありがとう、ナオト」
そんなナオトの頭を撫で、優しく微笑むゆり。ナオトはそれに、心地好さそうに目を細めた。
「ゆりさん、お水飲めそう?」
「うん、頂くね」
身を起こし、ゆりはクーナに差し出されたコップを受け取る。中の冷たい水を喉に流し込むと、少し気分が落ち着くような気がした。
「サークさんは?」
改めて部屋を見回したゆりは、浮かんだ疑問を口にする。サークの姿だけが、この部屋のどこにも見えなかった。
「サークなら、街に情報収集に出てるよ。ナオトはゆりさんの側にいるって言い張ったし、看病する人もいた方がいいから、私も残ったの」
「そうだったの……ごめんね、クーナちゃん。迷惑かけちゃって」
「いいのいいの! 困った時はお互い様だもん!」
謝るゆりに、クーナは明るい調子で笑顔を返す。その屈託のなさに彼女の真っ直ぐな気性が見えるようで、ゆりの顔にも自然と笑顔が浮かんでいた。
「戻ったぞ。……ああ、起きたのか、ゆり」
その時、部屋のドアが開きサークが入ってきた。サークはゆりに近付くと、小さな包みを手渡した。
「薬だ、飲んどけ。今のアンタには効く筈だ」
「ありがとうございます、サークさん。何から何まで……」
「いいさ。……ナオトだけじゃなく、クーナも随分アンタを心配してたからな」
今更取り繕う必要もないと思ったのだろう、ゆりに対してもサークはぶっきらぼうなままだ。しかしそれが少しは気を許して貰えたように思えて、ゆりには嬉しかった。
「サーク、どうだった?」
「そうだな……まずこの世界は俺達の世界でも、ゆり達の世界でもない。それは間違いない」
続けてそうキッパリと告げられた言葉に、ゆりは落胆する。覚悟していたとは言え、こうしてハッキリと答えが出てしまうとやはり気持ちが沈むのは抑えられなかった。
やっと、自分の居場所を見つけられたと思ったのに。あの暖かな人達と、もう出会う事は叶わないのか――。
「――だが、帰る方法も見つかった」
「!!」
しかし落ち込むゆりの耳に、そんな言葉が飛び込んできた。ゆりは思わず、自分の体調も忘れて身を乗り出してしまう。
「サークさん、本当ですか!?」
「ああ。その前に、まずはこの世界についての情報を伝える」
そんなゆりを手でやんわりと制し、サークが告げる。ナオト以外のその場にいた全員に、緊張が広がっていった。
「この世界では、別の世界から誰かが迷い込む事は珍しくない事らしい。世界と世界を結ぶ中継点。それが、この世界らしいって事だった」
「あっ、そういえば、違う世界の筈なのに私達の世界のお金でこの宿に泊まれた!」
「それも、金が使えるっていうよりは、違う世界の物質がこの世界では価値があるからって事らしいな」
話からすると、どうやらここの宿代は二人が立て替えてくれたらしい。二人と違い着のみ着のままで放り出されてしまったゆり達には仕方の無い事であったが、それでもゆりはその事に申し訳無さを感じた。
「で、ここからだ。この街の北に、一つの塔があるらしい。その最上階にある水鏡から、自分の望む世界に行けるって話だ」
「じゃあ、その塔に行けば……!」
「ああ。それぞれが、自分の元いた世界へ帰れる!」
沸き立つサークとクーナに、ゆりの心にも安堵が広がっていく。帰れるのだ。ここで生きていきたいと、そう願った
「……ゆり。ゆりはやっぱり、オレ達の世界に帰りたい?」
不意に、それまで興味が無さそうに黙っていたナオトが、ゆりの顔を覗き込み聞いた。ゆりはそれに、小さく頷き返す。
「うん。あの世界が、私とナオトの居場所だもの」
「……」
ナオトは、そんなゆりを真っ直ぐに見返す。ゆりが静かに次の言葉を待っていると、やがて、ナオトが再び口を開いた。
「――さっきも言ったけど、オレは、ゆりさえいるならどこで暮らしても構わないんだ」
「うん」
「だから、この世界で二人っきりで一からやり直すのも、悪くないって思ってた」
「うん」
「……でも」
そこまで言うと、ナオトはゆりを深く抱き締めた。彼の暖かな体温に、自然とゆりの体から力が抜ける。
「ゆりが、帰りたいって言うんだったら。オレも、ゆりと一緒に帰る為に全力出すよ」
「……うん。ありがとう、ナオト」
ナオトの腕の中で、ゆりの顔が綻ぶ。こんな風に、全力で自分を愛してくれるナオトといられるのはとても幸せだと、そう改めてゆりは感じた。
「……こいつら、すぐイチャつくのだけはどうにかなんねえのか……目のやり場に困る」
「う、うん……」
――それを呆れ顔と、少し羨ましそうな顔でそれぞれ見つめる二つの視線にゆりが気付くのは、このもう少し後となる。
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