《ゆりせんせいは猫耳サイテー勇者を教育します!×星空の小夜曲》第7話 結局ここはどこなんだろう?

「それじゃ、改めて私から自己紹介するね!」


 一旦全員が落ち着いたところでそう切り出したのは、クーナと呼ばれていた少女だった。改めて見るとゆりより背は高いが、仕草はどこか小動物めいた可愛らしい少女だ。


「私はクーナ! 冒険者になって今年で三年目の十六歳! 特技は魔物を殴ってブッ飛ばす事!」

「それは年頃の女の自己紹介として正しいのか……?」

「今必要なのは危険を乗り切る為の力でしょ?」


 呆れたように口を挟むサークに、堂々と言い返すクーナ。黒いローブに黒の三角帽子と魔法使いのような格好と清楚な見た目から大人しい少女なのかとゆりは思っていたが、実際はかなり活発な性格であるらしい。


「俺はサーク。クーナとは旅のパートナーの間柄だ。つっても実質保護者みてぇなもんだが」

「そこ、一言余計ですー!」

「悔しかったら、早く一人前になるんだな」


 次いでサークが、気だるげに頭を掻きながら名乗る。ゆりと二人だった時の紳士然とした振る舞いとはまるで違うフランクな態度だが、クーナと再会した事で素が出るようになったのだろうと思うとゆりには微笑ましく映った。


「私は矢仲やなかゆり。矢仲が苗字でゆりが名前です。モルリッツという街の孤児院で働いています」


 その次にはゆりが名乗った。するとゆりにピッタリとくっついて離れないナオトが、ニヤニヤしながら付け加えた。


「で、オレの奥さんで、誰も割って入れないくらいラブラブー♪」

「もうっ、真面目な話をしてるんだから茶化さないの! ほら、ナオトも自己紹介して!」

「えー、オレも? ゆりが代わりに紹介してよ。私の最高で最強で最愛の旦那様ですー、って」

「駄目よ。こういうのはちゃんと、自分の口から言わなくちゃ」


 ゆりがやんわりとたしなめると、ナオトは渋々といった様子でクーナとサークの方を向いた。そして最大級のドヤ顔で、二人に向かって言い放つ。


「オレはナオト! 『紅い勇者』のナオト様って言えばこの世界じゃ一番の有名人だから。狐みたいなアンタもナオト様って呼んで敬ってくれていいぜ!」

「……おい、何だあいつ」

「ア、アハハ……あれでも悪い人じゃないんだよ……多分」


 ナオトの我が道を往きすぎる自己紹介に呆れ顔になるサークに、クーナが軽いフォローを入れる。きっと二人きりの間、ナオトが沢山迷惑をかけたのだろう……と、ゆりはこの出会ったばかりの少女に同情した。


「……まぁいい、ところで今「この世界」っつったな? て事は、俺達が別の世界から来た事は把握済みって事か?」

「まぁ、一応。この世界じゃ結構よくある事で、アンタらみたいに他の世界から来た奴は『召し人』って呼ばれてんの」

「……ナオト、その事なんだけど」


 ナオトは当然のように自分の世界の説明を始めるが、ゆりはそれを途中で止める。そして、自らの懸念を口にした。


「ここって……本当に私達の世界なのかな?」

「え?」

「だって、おかしいもの。私、目が覚めたら、いきなりこの森にいたのよ?」

「……それはオレもだけどさ」


 ゆりの言葉に少しだけ考え、ナオトが頷く。そこにゆりは、自らの懸念を強めた要因を指摘した。


「それに……ナオトが持ってるの、オスティウスでしょ?」

「うん」

「それはナオトにしか持てない物の筈よ。誰がどうやってここまで運んだの?」

「ちちっ、ちょっと待って。それって、ナオトとゆりさんも別の世界からここに飛ばされちゃったって事!?」


 二人の会話からゆりの考えを察したのだろう、クーナが慌てた声を上げる。ゆりは迷いながらも、それに小さく頷き返した。


「うん……そう考えるのが一番自然な気がする」

「……チッ、別々の世界に住んでた者同士が同時に同じ世界に飛ばされる……面倒な事になりやがった」


 ゆりの推論に、難しい顔で考え込むクーナとサーク。しかしそこに、ナオトの能天気な声が割って入った。


「ま、何とかなるんじゃない? もしここが違う世界でも、それならここで暮らせばいーんだし」

「ここで暮らすって……ナオトは帰りたくないの?」


 あまりにも危機感のないナオトに不安になったのか、クーナが眉を下げ問いかける。その問いに、ナオトは力強く笑って答えた。


「だってゆりがいてくれるなら、そこがオレにとっての『家』だから」

「……!」


 瞬間的に、ゆりの頬が熱くなる。同時に、胸の奥から嬉しさと愛しさが込み上げてきた。


 ――ナオトの、『帰る場所』になりたい。


 かつてそう願った想いが確かに伝わり、そして、叶えられているのだと――実感する事が出来たから。


「……ナオト……」


 目尻に涙を滲ませながら、ゆりがナオトを見る。ナオトもまた、ゆりを見つめ――。


 ――次の瞬間には、耳をピンと立ててバッと辺りを見回した。


「……気付いたか、エロ猫」


 気が付くとクーナとサークもまた、鋭い目付きで辺りを睨んでいた。ゆり一人だけが、何が起きているか解らず困惑の表情を浮かべる。


「ナオト……?」

「ゆり、ここから動かないで。……いる・・

「何が……」


 ――ギャオオオオオオオオッ!


 そう、問いかけたゆりの耳に。身の毛もよだつような咆哮が、聞こえた。

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