《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》第6話 ほんとうのきもち
それから、私達は早めに就寝する事にした。姉様は余程恥ずかしかったのか、私を連れてトキさんとは離れた所で寝ると言い張った。
うん……私も……ビックリしたけど。……大人のキスを、あんな間近で見る事になるなんて思わなかった……。
うぅ、思い出すとまだドキドキする……。多分好き合ってる仲なんだろうなとは思ってたけど……まさかあんな事するまで関係が進んでたなんて~~!
(……いつかは、私もサークとああなれるのかな)
二人の姿を、私とサークに当て嵌めてみる。けれど途中まで考えたところで、恥ずかしくてそれ以上想像出来なくなってしまった。……やっぱり私には、オトナの関係はまだ少し刺激が強すぎるみたい……。
「……姉様、まだ起きてる?」
隣で寝ている姉様に呼び掛けると、姉様はうっすらと目を開いた。さっきまでは私の顔もトキさんの顔も見れない有り様だったけど、どうやら少しは落ち着いてくれたみたいだ。
「あの、姉様、さっきはごめんね……? その、見ちゃって」
「いっ、いえ……クーナちゃんは私を心配してくれただけですから……」
謝る私に、姉様は恥ずかしそうに顔を俯かせながら首を振る。もっと怒ってもいい筈なのに姉様は本当に優しいな、と私は思った。
「……ねえ、姉様」
「何ですか?」
「姉様は、トキさんとずっと一緒にいたい?」
そう私が聞いた瞬間、姉様の瞳が微かに揺れた。その反応に、私は触れてはいけない事に触れてしまったような気になる。
「……トキさんはきっと、私とずっといたいとは思ってくれていません」
少しの沈黙の後、姉様は寂しそうに微笑んでそう言った。とてもそうは思えなかった私は、重ねて姉様に問い掛ける。
「どうしてそう思うの?」
「私は……ただトキさんが目的を達成するのに都合がいい、ただそれだけの存在です。トキさんに必要とされなくなれば……それまで、なんです」
そんな筈はない。仕方なく連れ歩いてるだけの相手にあんな優しい視線を向けたり、あんな……あんな情熱的なキスをしたりなんて、幾らトキさんがひねくれてても絶対にしない。少なくとも私はそう思う。
けど……それは結局、私の勝手な推測に過ぎない。姉様に期待を持たせて、もしそれが間違っていたら……傷付くのは他でもない、姉様だ。
それに……。
「トキさんにいらないって言われたら、姉様は身を引くの? 姉様はそれでいいの?」
そう、私が一番引っ掛かったのはそこだ。もしトキさんに拒まれたとしても、それは姉様の意思には関係無い筈だ。
私の聞きたいのは、姉様の意思。けれど姉様は、困ったように笑って言った。
「トキさんが選んだ事なら……私はそれに従うだけです」
――おかしいよ。そんなのおかしい。
だって、見てれば解る。姉様は絶対、トキさんの事が好きだ。だからトキさんの事を話す時、あんなに嬉しそうにしていた筈なのに。
「……納得、出来ないよ」
「え?」
思わず私の口を突いて出た言葉に、姉様が驚きの声を上げる。そんな姉様を真っ直ぐに見据えて、私は言った。
「一緒にいたいのに、いらないって言われて素直に諦めるなんて私には出来ない。そんなに簡単に割りきれない」
「クーナちゃん……?」
「私はいるよ、ずっと一緒にいたい人。その人の横に並ぶ為なら、どんな努力だってしてみせる。一回や二回拒まれたくらいじゃ諦めない」
そうだ。私はサークと一緒に旅をする事になった時、誓ったんだ。サークの相棒として隣に立つのに、相応しい冒険者になってみせるって。
「私は、私の気持ちに嘘を吐きたくない」
「……」
自分の思いを言い切った私を、姉様はじっと見つめ返す。やがてその顔が――悲しげに、歪んだ。
「――強いんですね、クーナちゃんは」
「姉様……」
「私は……クーナちゃんのようにはなれない。……私は、神に仕える身だから。私の我が儘で誰かを困らせるなんて……あっては、ならないんです」
その言葉に、胸が痛くなる。自分のせいで誰かを困らせたく、悲しませたくない。それは紛れもない、姉様の優しさ。
でも――姉様だって自分の為に生きてもいい。幸せに、なってもいいのに。
「……なら、姉様。私にだけ、姉様の本当の気持ち、教えて」
「本当の気持ち……?」
「これだけ霧が深かったら、きっと神様も私達を見失ってるから。今なら、私しか聞いてないから。姉様が本当はどうしたいか、聞かせてくれる?」
そう言って姉様の手を取り、微笑む。そんな私を見つめ返す姉様の目が、迷うように揺れた。
「……私は……」
やがて、姉様が口を開く。綺麗な碧の目を、泣きそうに歪めて。
「本当は……ずっと一緒にいたい。トキさんと、ずっとずっと一緒にいたい……っ!」
「なら、私達おんなじだね、姉様」
「同じ……」
「うん、おんなじ。どっちも、大切な人がいる者同士」
私のその言葉を、姉様がどう受け取ったのかは解らない。けれど姉様は、ほんの少し何かを考えるように私を見て。
「……同じ……嬉しい……」
と、天使のような笑顔で笑ってくれたのだった。
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