とても平和な魔王城⑤……になるはずだったんだ
「なん…だ? あれは」
「えぇー…と、なんでしょうね。あれ」
テラスから見た真っ赤な何か。ゼロとルビは頭をかしげる。ゼロはさりげなく『能力』を使う。
(ドラゴンの血…………………………え? それだけ!? 真っ赤な何かはドラゴンの血なのは解ったよ。で、その血の下の……人型の何かはなんなんよ!)
ゼロは心の中でツッコミを入れる。ルビは顔にすぐ出るタイプのゼロの顔見て質問する。
「魔王様、どうしてそんなに驚いてるんですか?」
(!! やはりルビは心を読めるのか!?)
ゼロはその事実に動揺する。いや、違う。ゼロは顔に出るタイプだった。ルビは鑑定できる能力は持ってはいないため、『ただ真っ赤な生命体がこちらに向かって来ている』ということしか分かっていない。
ゼロの『能力』であってもドラゴンの血を通してその下の生物までは理解することができない。せいぜい何のドラゴンの、どの個体で、何て名前だったのか、までは理解出来た。だが、そのドラゴンの血の量、個体数が多すぎて本命の血に濡れた何かまでは到達出来ない。
そもそもドラゴンの血は高密度の魔力の塊みたいなものでそれを通して下にある何かを鑑定や解析することは難しい。
ゼロとルビが赤い何かを観察している内に赤い何かは魔王城の上空で止まる。そしてまた赤い何かが現れた。
「分裂しただと!?」
「ま、魔王さまぁ」
ゼロとルビは動揺する。さすがにここまで謎の生命体が近くにいれば魔王城にいる者達は全員気付く。それでも動こうとしないのはゼロがその謎の生命体に一番近くにいるからだ。この相手は魔王様
ゼロが常軌を逸して強いのは皆が知っている。ゼロが負けるはずがないのも知っている。本気を出さずともゼロが勝ってしまうのも知っている。ゼロが本気を出せば世界を滅ぼせてしまうことも知っている。ゼロが本気を出せば世界を創れてしまうことも知っている。
だから皆安心して勝利するところだけを見れる。
-そう、思っていた。
足元の床、この城の壁・天井、机・椅子などの家具、照明、地下の実験道具、訓練所、その他生物以外の全てが消えて無くなり、魔王城にいた全ての魔族は反応も出来ず、理解も出来ず、ただ自由落下を始めた。
「え?」
誰の発した言葉か分からない。だが、誰もがそう思った言葉でもある。
別にこの高さから落ちても誰も死なないし、誰も怪我一つ負わない。空を飛ぶことも出来る者がほとんどで、飛ぶことが出来ずともそれに類似することであれば、ここにいる魔族なら誰でも出来る。
それでも飛ぶものはいない。
自分が落ちているのは分かっている。分からないのは『なんで』落ちているのかが分からないから飛ぶことを忘れてしまう。
『魔王城制圧依頼完了』
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